第58話

 車の中はひとり用の対面ソファーとその間にテーブル、向かい側には三人ぐらいが座れそうなソファーがあった。

 車内後部がキッチンスペースで、カセットコンロとレンジまである!

 キャンピングカーと言えば、運転席の上にベッドがあるイメージだけど……。


「ベッドないなぁ。どうやって寝るんだろう?」

「きゃっ」

「今度はなんだ!?」


 後ろで悲鳴がして振り向くと、三人掛けソファーが──ベッドになっていた。

 どうやらソファーベッドタイプのようだ。

 唖然とするアーシアの隣では、ルーシアが対面ソファーをあれこれ弄っている。


「あ、見てタック。こっちのソファーも動くわよ」

「待ってルーシア。そのままではテーブルが邪魔でしょう? これを動かせ──まぁ!」

「凄いわタック! テーブルの天板は壁のほうに折りたたんで収納できるんだわっ」


 テーブルの脚は簡単に外せ、天板はそのままパタンと畳めるようになっていた。

 そうして対面ソファーも動かすと、三人掛けソファーベッドとピッタリくっついて大きな一つのベッドに。

 おぉ、これなら寝れる!

 さすがに三人で寝るのは狭いかなぁ。


 そうなると運転席の上……外から見るとでっぱりもあったし、ベッドだと思うんだけどなぁ。


「あ、ここ、引き出しになっているわよタック」

「あれ、本当だ」


 運転席の上をよく見ると、厚めの板とクッションが交互に重なっているの物があった。

 車体上部の左右にあるキャビネットには溝もあって、この板を引き出せと言わんばかりの形だ。

 引き出してみると──あったよベッド!


「よしっ。これで広々と寝られるぞっ」

「凄いわねタック。こんな宿屋は初めてよ」

「宿のご主人がいらっしゃらないですの。どこなんでしょう?」

「いや、これ……乗り物なんだ」

「「えぇ!?」」


 車が存在しない世界だと、キャンピングカーは宿屋って認識なのか。


 カセットコンロとレンジ、それにホームベーカリーもあるし、これで料理もしやすくなるだろうな。

 水は出るのかな?


 ベッドに展開されたソファーの上を這って後部へ。

 小さな流し台の蛇口を捻ると、ちゃんと水が出た!!


「まぁ、お水まで!」

「その赤い箱は何? それに下にも何かあるわ。宝箱なんじゃない!?」


 ルーシアの言う赤い箱は電子レンジ。下は──冷蔵庫だ。何も入っていない。

 電気はガソリンから来ているんだろうけど、じゃあガソリンは……。

 今は満タンだろうけど、給油なんてできないだろうから──ある意味使い捨て!?


「ま、いいか。どうせ僕、車の免許なんて持ってないから走らせられないし」


 電機のためだけに使うのなら、しばらく持つだろうしね。


「今日はここで野宿だ。ただし屋根もベッドもある野宿だけどね」

「やったぁ~」

「じゃあさっそく食事の用意をしましょう。タックさん、使い方教えてくださいね」

「もちろんだよ。その前にベッドを戻そうか。これじゃあ食事もしにくそうだし」


 三人でソファーを起こして元の形へ。

 コンロやレンジの使い方を教えながら、今夜は三人で料理をした。

 ホームベーカリーの使い方は、中にちゃんと説明書があったのでそれを見ながらになる。

 僕もホームベーカリーを使ってパンを作ることはあった。パン屋さんに行くのは億劫だったからね。

 でもメーカーが違うと使い方も変わってくるから、まずは説明書をしっかり読まなきゃな。

 

 至れり尽くせり──かと思ったけれど、調理器具も調味料も、そして食器なども一切なく。

 その辺りは野宿するために持っていたのでよかったよ。






「ねぇタック。一緒に寝ましょうよ」

「せ、狭いじゃないか」

「平気です。ぴったりくっつけば大丈夫ですの」

「そうよそうよ」

「ダ、ダメだってっ。キャンピングカーの中とはいえ、僕らは野宿をしているんだよっ。み、見張りをしなきゃっ」


 本当は一緒に寝たい。凄く寝たい!

 でもそんなことしたら、きっと我慢できなくなってしまう。

 我慢できずにやっちゃったら、誰が見張りに立つっていうんだ!


「ぷぅー」

「タックさん、変わりに見張りをしてくれるようなアイテムはないのですか?」

「さすがにそれは……」

「「ぷぅー」」


 いや、ぷぅーって可愛く言われたって。

 クルーザーには操舵師のNPCがいたけど、さすがにキャンピングカーにはいないし。

 いたとしても車内にいられたんじゃ、えっちなことなんてできないよ!

 

 二人にはソファーベッドで眠って貰い、僕は運転席へ。

 あ、ちゃんと車のキーがついているんだ。

 うっかりエンジンが掛かったら怖いし、外しておこう。

 あとドアのロックも──


 なんかいっぱいボタンあるなぁ。キャンピングカーだからかな。

 あ、バックセンサーのカメラとかついてるんだ。見張りをするのにちょうどいい。


「タック、おやすみ」


 ルーシアが座席の隙間から顔をだして、僕にキスをする。

 終わると入れ替わりにアーシアがやってきて、やっぱりキスをする。


「ん。おやすみですの、タックさん」

「おやすみ、二人とも」

「眠くなったら起こすのよタック」

「分かってるよ」


 運転席以外の車内の電気を消して、二人が眠りやすいようにする。

 

 車の免許は持っていないうえにこれはキャンピングカーだ。

 物珍しさにいろいろ弄りたいけど、音がでたりして二人を起こしたら可哀そうだ。


 でも何もしないでただ座っているだけだと眠くなる。

 なんせこの運転席のシート……なかなか座り心地が良くって気持ちい。

 暇つぶしにインターフェースを隅々まで見ておくかな。


 当たり前のようにインターフェースがあったし、当たり前すぎるから今まで必要な所しか開いていなかった。

 こうなったことへのヒントが少しでもないかと、ウィンドウを開く。


 気になるのは──ヘルプだ。


 ゲームプレイ中に開くことなんてほとんど無かったけど、たいていは操作について書かれている程度だ。

 アイテムの使い方、取引の仕方、戦闘の仕方。項目ごとにいろいろあるけれど、一番最後に【NEW】と書かれたものがあった。

 その項目には『異世界後について』と書かれていた。


 異世界後……こうなることが最初から想定されていたかのような項目だ。

 

 震える指先で項目をタップすると、そこにはこんな文章が書かれていた。


 



 MMORPG『Lost Online』をプレイしていただき、ありがとうございました。

 地球とこの世界の両方を救うために開発されたMMOシステムは、残念なことに地球側の滅亡が早まったため失敗に終わりました。

 しかしながら、一部のプレイヤーの方に置かれましては、無事に『Lost Online』の世界へ転移されたかと思います。

 これをご覧になられている皆さまには不安かと存じますが、馴染みのあるゲーム仕様でございますので、どうか強く生きられてください。

 

 また、一部アップデート内容の説明ができないままの転移となってしまいました。

 以下のリンクにて新職業の詳細などを記載しております。分からないことがあれば、そちらでご確認ください。

 なお、運営への問い合わせは不可能となっていますことを、ここにお詫び申し上げます。

 




 地球とこの世界を救うために作られたMMOシステム?

 いったい何のこと?

 それに……地球が滅亡した!?


 そんな。

 じゃあ……他のみんなは?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る