4章
第57話
「んーっと、二人の故郷は北西──」
「ここよ」
オーリンの港町で、大陸の西側の地図を購入。それを見ながら目的地の再確認だ。
いまいるのはオーリンを出てすぐの街道……の脇。
「ブレッドさんが仰ってた、ジータの町へ一度寄って、それから北へ向かうルートもあるですの」
「でもこの山が邪魔じゃないかい?」
港町オーリンからジータの町の間には、北から南に真っすぐ伸びる山脈があった。
地図で見てもそれほど大きな山脈ではないけれど、山越えルートになるのは間違いない。
山を越えないのなら北からぐるっと迂回するルートがあるけれど、だったら二人の故郷があるという森に先に行くのもいい。
「それに……ジータの町に行ったら、調べたいこともあるんだ」
「調べたいことですの?」
「何を調べるの、タック」
「うん。実はアーシアに渡した剣なんだけどさ──」
その剣の元の持ち主を僕は知っている。
一緒に『Lost Online』をプレイしていた仲間だ。
そのことを二人に伝え、ブレッドの言う「持ち主を選ぶ装備」のからくりを聞かせた。
二人は驚いたものの、これまでも職業変更チケットだの経験値アップのチケット、そしてガチャを見ているのもあって、装備ロックやそれを解除できるアイテムのことは素直に納得した様子だった。
「タックさんのお友だちの品、頂いてよろしかったのですの?」
「いいよ。だって300年も過ぎてるんだし、しかも海に沈んでいた物なんだよ。誰にも使われないより、使って貰った方がいいに決まってるしね」
「じゃあタック。ジータの町にあるって言う、持ち主を選ぶ装備も、全部卵をぶつけるの?」
「いや。レジェンド装備は、今は貴族の所有物だとブレッドは言っていただろう?」
「装備できる者が現れれば、譲ってくださるそうですが」
ブレッドじゃないけど、本当かどうか怪しいものだ。
もし本当だとしたら、いくら掛かってもいいから卵をじゃんじゃん投げつけてやる。
いや、でも装備できることが譲渡の条件だしなぁ。
剣はアーシアが、弓はルーシアが。槍や斧なんかも、アーシアが装備できるだろうし、僕は杖──いや待てよ。
僕の職業はエターナルノービスだ。
魔術師みたいな戦闘スタイルしかしていないし、うっかり忘れろところだったよ。
そう、僕はエタノビだ。
エタノビって何を装備できるんだ?
短剣と杖は分かっている。
でもそれだってどのレベル帯の物まで装備できるのか。
ノービスというぐらいだし、初心者用しか装備できないんだろうなと思っていたけど、今装備しているのはレベル相当の装備だ。
改めてステータスを見ても、装備条件なんてどこにも書いてない。
「自分の職業のことが何も分からないって……結構面倒だなぁ」
「ん? タックは魔術師じゃないの?」
「あー、いや。違うんだ。実はかくかくしかじかでね」
この世界に転移してくる直前。あの地震の最中で転生システムを使った職業選びで失敗したことを二人に話した。
そして何故か呆れた顔をされた。
「地震で揺れてるってのに、タックは職業選びをしていたですって!?」
「タックさん。そういう時は遊んでないで、逃げるものですの」
「いやでも、大事なことだったんだよ!」
「「命より大事な物なんて、ありませんっ」ですのっ」
い、いいじゃないか。い、生きてるんだし。
「と、とにかく、ジータの町は後からにしよう。いろいろ面倒くさいことにもなりかねないし」
「そう? まぁタックがそう言うならいいんだけど」
「では、山を迂回する形で北西に進みましょう」
ルートは決まった。
街道を進む間は馬車を使う。もちろん乗合馬車なんかじゃない。
パーティー用騎乗ペット──というか普通の馬車。前はアルパカの馬車を使ってテント代わりに使ったけれど、こっちは馬が馬車を引く。
移動速度がこちらの方が早いからだ。その代わりアルパカ馬車と違って馬車自体は小さく、御者台合わせて三人しか乗れない。
僕らは三人なので、ちょうどいいとも言えるけれど。
「よし、それじゃあ出発だ」
「「はーい」」
馬を走らせ暫くすると、二手に分かれる道へと出た。
真っすぐ進むコースには山があり、馬車を北へと伸びるコースに進ませる。
いくつかの分岐点では、地図を見ているアーシアたちが進むべき道を教えてくれる。
「そろそろ夕方になってくるけど、この先に村や町はありそうかい?」
御者台から後ろに尋ねると、二人の「うぅん」という声が聞こえてくる。
「地図ですと、町の位置は書かれているのですが」
「村はさすがにないわねぇ。あと町はしばらくなさそうよ」
「じゃあ野宿かなぁ」
またアルパカ馬車で寝るか。
あぁ、せめてクルーザーが出せれば、ベッドがあるのになぁ。
少なくともモンスターはクルーザーに上がっては来れないし、安全だ。
いっそ陸の上に船を出す!?
でもそうなると水平に置けないよな。傾いてたら立っていられないだろうし。
いや……川とかないかな。深さがあればいいんじゃ?
「この近くに川はあるかい?できれば深い川がいい。湖とか、そんなのでもいいよ。クルーザーが出せるところはないかな」
「え? か、川ならあるけれど」
「そこだ!」
「待ってくださいのタックさん。その川はとても浅いですのよ」
ぐ……ダメか。
どうしようかな。他に何かいい乗り物はないか?
大型アップデートの後だし、新発売の課金アイテムはまだ一つも買っていない。
見てないわけではないんだ。でも新商品のほとんどはアバターだし、あとはレベルがリセットされたことで使えなくなった高レベルご用達の消耗品だったもんな。
あとは──おたのしみガチャだ。
説明を見ると、新作アバターの色違いバージョンや──新乗り物!?
今まではライド獣って名目で売られていたじゃないか。
馬車だって『ライド獣』という種類になる。まぁ馬が引くんだし、その馬をメインとするならそれでもいいのか。
クルーザーがライドガチャだったのは何故だろう……操舵手のNPCがライ……いや考えないようにしよう。
乗り物……車だったらどうしよう。ワンボックスカーなら、馬車より絶対寝やすいだろ。
「この辺りで今日は休もう。それでガチャをしよう」
「……タック、アタシあなたの言っている意味が分からないわ」
「休むためにガチャをするのですの?」
「そうだよ。手伝って」
馬車を止め、さっそく僕はおたのしみガチャの10個セットを3つ購入する。
ひとり10個ずつオープンするのだけれど──
「これは下着ですの?」
「最初にタックから貰った下着に似ているわね。色柄が違うけれど」
「あとフリルもあって、こちらの方が可愛いです」
……アーシアのは水着か。
じゃあルーシアのは?
「あ、これ可愛い」
「わぁ。ルーシア羨ましいですのぉ」
なんかのアイドルアニメとのコラボ衣装か。
僕は──
「バニラカップアイス10個セット……冷たっ!」
「なんですの、なんですのそれ?」
「食べ物なの?」
「あとで! 次、じゃんじゃん開けるよ!」
アーシアもルーシアもアバター。
そして僕はまたカップアイス。今度はいちご味。
アバター……武器アバター……使用不可能な高レベル用高級ポーション……あ、乗り物来た!
「って自転車かよ!!」
「何に使うの、それ?」
「次!」
そうして10個全部開けたけれど、自転車以外の乗り物が出なかった。
まさか自転車しか入ってない?
いやいや、まさか。
もちろん追加で買いますよ?
30セット買って──今度はマウンテンバイク! もちろん自転車のほうね!
追加30セットだぁ!
「きゃあぁぁぁぁっ」
「ルーシア!?」
突然の悲鳴。
振り向くとそこには白い塊が。
「タ、タックゥ。最後の一個開けたら、こんな大きいのが出てきたのよぉ。なにこれぇ」
「て、鉄ですのこれ? 鉄の大きな箱? でも車輪もついてるですのね」
「あ……あぁ……おめでとうルーシア! ガチャ対決は君の勝ちだ!!」
ワンボックスカーがあればいいなぁとは思っていたんだ。
だけどまさか──
キャンピングカーが入っていたなんて!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます