第54話

 半魚人の町を出て地上へと上がり、そして船に乗り込む。

 ちょうど都への先遣隊と合流して、彼らを船に乗船させてやった。


 お姫さまから貰ったアレスのレジェンドソード。

 ロックが掛かっているので、このままでは誰も装備することができない。

 これを解除させるアイテムはもちろんある。課金アイテムとして。


 ただ低確率で解除できるっていう品なんだよなぁ。

 課金させてそれって酷いって話が、販売された当初は言われていた。

 だけど人間ってのはげんきんなもので。


 ロック解除エッグは10個セットで100円と安く、レジェンド装備を転売した時のゲーム内金額と、この卵をゲーム内で販売した時の差額を考えて──3セット以内に解除できれば儲ける!

 という結論を出した。

 結果。感覚が麻痺して、そのうち解除できるまで必死に卵を使うプレイヤーも現れるっていう。

 もちろん僕はそんなことはしない。

 3セットでダメなら、3セットの卵をゲーム内で転売!

 売れたらまた3セット買って解除に挑む!


 これが正しいやり方だ。


 そんな話をバラモンにしたら「お前も大概だよな」と言われたことがある。

 心外だ。


 半魚人の都海域までの移動中、エッグガチャを開始。


「何しているの、タック」

「うん。この剣、このままじゃアーシアが装備できないんだ」

「え? 装備って……手に持つだけですのに?」


 ……そうか。ここはゲームじゃないんだ。

 だから手に持つだけで装備したことになるよね。実際、僕だってこうして持っているのだから。

 結構重く感じるのは、僕の筋力ステータスがゴミみたいなものだからだろう。

 アーシアならちゃんと持てるはず。


 そう思ってアレスの剣を彼女に手渡した。


「きゃっ──お、重いですの」

「え、重い?」


 アーシアのステータスって、今どうなっているんだろう?


****************************************


 名前:アーシア 種族:獣人 年齢:16

 職業:ソードマン

 レベル:36


 筋力:45+4+25

 肉体:15

 回避:31+10

 命中:3

 敏捷:26+10

 魔力:1

 詠唱:1


【習得スキル】

 剣術マスタリー☆5 / バッシュ☆3

 筋力強化☆1

****************************************



 いやいやいや。筋力高いじゃん!

 装備効果も合わせて70超えてるじゃん!


「ふむ。その武器は持ち主を選ぶのだろうね☆」


 にゅるっと僕らの前に顔を覗かせたブレッドがそう語る。

 特別な力を与えられた武具には時々あるようで、認められた者だけが装備することを許される。逆に言えばそうでない者は装備することができない──そんな物があると彼が言った。


 たぶんそれ、装備ロックが掛かっているだけだから。


 と彼に言ったところで理解はできないだろう。


 だけどこれって……やっぱりロック解除エッグ?


 手に持った卵とアーシアが重たそうに持つ剣を見比べて、僕は試すことにした。

 とりあえず3セットだけやろう。

 問題はどうやって使うのかだ。


 経験値アップチケットは破って使うだけだったけど、これはどうすればいいんだろう。


「その卵、割るのかい?」

「え、わ……る……割るのか!?」

「ん? 卵は割って食べるものだろう?」


 不思議そうな顔をしたブレッドを他所に、手にした卵をアーシアが持つレジェンドソードの刃にコツコツと叩きつけた。

 ぱかっと開いた卵。だけど中からは黄身も白身も出てこない。

 キラキラとした光の粉が刃に降りかかるだけ。

 光が消え、アーシアに「どう?」と尋ねるが、彼女は首を傾げて「どうというのは、なんでしょう?」と。


 失敗。

 次!


 コツコツ、パッカーンっと卵を割って──「軽くなった?」と尋ねる。

 首を左右に振るアーシア。

 次だ次!






「あ、軽くなりました!」

「やった!! くぅ、26個目かぁ。まぁ3セット以内だから勝ちではあるけれど」


 出来れば最初のセットで解除したかった。

 いや、転売するためじゃないからいいのか。


「その卵で、選ばれし者になれるというのかい?」

「……ま、まぁそんな感じだね」

「ほぉ。君は本当に面白い人だ。ボクもね、いくつかそういった武具を持っているんだ。機会があれば、君に見て欲しいものだね」

「へぇ。レジェンド装備を持っているんですか」


 こくりと頷いたブレッドは、僕に特別な情報を教えてくれた。


「オーリンの港町からまっすぐ西へ進んだ先にあるジータの町にね、誰も扱うことのできない弓があるんだ☆ミ」

「弓?」

「そう。町を統べる貴族が所有しているのだけれど、他にもいくつか持っているんだ。装備できる者が現れれば譲ると言っているが、果たして本当かどうか♪」


 何故かブレッドは楽しそうに話してくれた。


 ジータ……プレイヤーにとって西の大陸では最大の拠点だった大きな町だ。

 あの日、アップデートが終わってサーバーがオープンした時。


 ジータの町にバラモンがいたはずだ。

 そして彼は弓使いだった。

 もちろんレジェンド装備をいくつも持った、廃プレイヤーだ。


 もしかしてバラモンの弓……なんてことはないよねぇ。





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