第53話
「ようこそお出でくださいました」
僕らを出迎えてくれたお姫さま。
だけど忙しそうだ。主に家臣の半魚人たちが。
「何かあったんですか?」
「申し訳ありません、慌ただしくて。特に何かという訳ではありませんの。ここは我ら一族の町でありますが、都ではないのです」
都ではない?
つまり──
「グリードに襲われ、都を捨ててこちらに避難してきていたのです」
「都が解放されましたから、我らは帰る準備をしているのですぶくぶく」
と学者も出てきてそう説明する。
もちろん全員ではない。もともとこの町の住民たちは、とうぜんここに残る。
都から避難してきた半魚人たちだけが、帰るというだけだ。
「そうだったんですか。じゃあ都って、先日グリードと戦った?」
「はい。あのすぐ近くの海底です」
「あんなのがいたんじゃ、逃げて当然よね」
「戻られても、お掃除が大変そうですねぇ」
ルーシアとアーシアの言葉に、お姫さまは頷いた。特にアーシアの言葉には大きく反応をし、大きなため息も吐いたりしている。
そりゃあ……あの巨大グリードに暴れられたんじゃあ、建物なんて破壊されつくしているだろうな。
「まずは現状確認のために、これから小隊を出発させるところだったのです」
「嫌なタイミングで来てしまって、すみません」
「そんなっ。皆様は恩人ですもの。いつでも歓迎ですわ。あ、そうそう、タックさま」
お姫さまは学者を手招きし、それから僕に向かってあるものを見せた。
リングだ。
グリード戦用に渡したリングを、返すと言っている。
「ありがとうございますタックさま。おかげで私、魔法というものを体験することができましたわ」
「わたしも、貴重な体験をさせていただきました。お借りしたリング、二つは使い潰してしまい、申し訳ない」
「いやいや。消耗品ですから、気にしないで。それよりも──」
お姫さまに渡した『慈愛の腕輪』は、一度装備するとロックがかかるアイテムだ。
返して貰っても、もう僕が使うことはできない。
分かってて渡したのだから、出来ればお姫さまが役立てて欲しい。
「他者の怪我を治す物です。決してゴミにはならないでしょう? どうか、使っていただけませんか?」
「し、しかし……」
「それに。これを機会に半魚人族も魔法を学んではどうでしょう? 学者さんも一度魔法を使っていますし、コツも掴めているんじゃないですか?」
そう話すと、学者は目を輝かせて頷いた。
「実はわたし、あれからリングを装備せずに魔法が使えないか練習をしてみたのですよ」
「おおぉ! どうでした?」
「はいっ。不発続きですが、それでも一瞬だけ──指先に小さな火が灯りました」
「おおおおぉぉぉぉぉ!」
魔法を極める職業をプレイした者として、これは興奮する話だぞ!
魔法が使えない種族として、この世界で認識されていた種族が──努力で使えるように!
「だったら学者さん、このリングを差し上げますっ」
「こ、これは?」
永久版の『ファイア・リング』と永久版の『ウォーター・リング』の二つだ。
普通に使える僕にとって、必要のないゴミアイテム。
それから急いでガチャをしまくった。
『リングガチャ』だ。
99%消耗品のリングで、余りにも人気が無くて99連がなんと5000円!
この前の『バラエティアバター』99連は2万円だから、その金額差でどれだけ人気がないか分かるだろう。
「このカプセル──あぁ、容器と言った方が分かりやすいかな。この中にリングが入っています。これも差し上げますから、半魚人族に魔法を広めてください」
「こ、こんなに!? し、しかしよろしいので?」
「僕も魔法を愛する者です。今まで魔法が使えなかった種族が使えるようになるとしたら、それは凄いことですよ!」
「タックがこう言っているんだし、貰ってあげてよ」
ルーシアの後押しもあって、彼らは僕からのプレゼントを受け取ってくれた。
「実は私から、みなさまに此度のお礼をしようと思っていたのですが……お礼になりそうにありませんね」
苦笑いを浮かべたお姫さまが、控えていた女半魚人に手を振る。
すると彼女らが一度奥へと下がり、そして再びやってきた。
十人ほどが、手にそれぞれ布のかかった何かを運んでくる。
「外洋で取れる珊瑚ですわ。近くの海流の影響で、人間族の方が滅多に入って来ない海域のものなので、かなり貴重だと思います」
「わぁ、綺麗」
「本当に」
アーシアたちが目をキラキラさせる後ろで、アリアさんも背伸びをして珊瑚を見ていた。
綺麗なものには興味があるんだろう。
珊瑚が乗ったお盆が五つ。
そして四つは真珠がどっさり入ったお盆……。
「いやいやいや、これ高価でしょう!?」
「そうらしいですわね」
首(ないけど)を傾げるお姫さま。
半魚人にとって真珠は、その辺に転がるちょっと綺麗な丸い石程度らしい。
価値観の違いか。
残り二つのうち一つは剣だった。
「昔、私のご先祖さまが拾ったものでして」
「拾った? この剣を?」
「はい。突然、海上から落ちてきたそうなのです。その時もグリードが大暴れした時代でして」
え──
グリードが大暴れした──時代?
「奴は数百年おきに現れる、深海の魔物。前回は300年ほど前じゃったか」
学者がそう話し、その時は多種族同盟軍の活躍で救われたのだと教えてくれた。
僕らがプレイした『Lost Online』は、確かにこの世界の過去として存在している?
「私たち半魚人族は、水の抵抗の少ない槍を使います。この剣には凄い力が付与されていますので、ぜひ、タックさまにお持ちいただきたいのです。アーシアさまがお使いになられるでしょうから」
そう言われて受け取った剣。
どこかで見覚えがある気が……。
青く光る刀身──これはレジェンド武器。
なんでレジェンド武器が海上から落ちて……ま……さか。
僕は慌てて武器をアイテムボックスに入れて、詳細を見た。
【蒼雷のルーンブレイカー*クワドロプルクリティカル+6】
所有者:アレス(ロック中)
アレス……
船の上から間違ってレジェンド落としたドジっ
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