第50話

「この丸い玉を開ければいいのですね?」

「うん、そう」


 バラエティ衣装99連ガチャ──を試しにワンセット購入してみた。

 ゲームだとメッセージボックスにガチャが転送され、クリックすればアイテムボックスへ。

 ボックス内のガチャアイコンクリックすれば開封という仕組みだったんだけど。

 異世界だとクリックでは開かなかった。代わりにガチャを取り出すという工程が追加されていた。


 取り出すってことは、実際に自分の手でガチャカプセルを開くってことで。これはこれで楽しそうだ。

 ガチャは白と赤の2色のカプセルでできていて、本格的なもの。


「開けるわよ、えいっ」


 ルーシアが可愛い声とともにガチャを開けるとぽわんっと白い煙が出て、中から衣装が一着出てきた。


「うそっ!? ふ、服が出てきたわっ。どうなってるの? こんな小さな玉から服よ!」

「楽しそう~。じゃあ私も。えぇーいっ」


 アーシアのガチャからは頭装備が出てきた。しかも狐耳のヘアバンドだ。


「……自前の耳がありますのぉ。これはタックさんに」

「え……あぅ」

「きゃ~っ。タック可愛いっ」


 狐のヘアバンドを装着させられ、微妙な心境になる。

 別に獣人っぽくなるから嫌だとかじゃない。単純に男がこういうのつけるのって、恥ずかしいだろって話。


 だけどルーシアの胸に抱かれたのは嫌いじゃない。


「よし。僕も開けるぞぉ。とりゃ!」


 パッカンと開いたガチャから飛び出してきたのは男ものの浴衣だ。


「それも服なのですか?」

「どこかの民族衣装かしら?」

「民族衣装か。うん、そんな感じ。さ、ガチャはまだまだある、気に入ったものがでるまで、オープンしまくろう!」

「「は~い」」






 99連ガチャを、リアルでやってはいけない。特にアバター系は。

 それを悟ったのは、三人でそれぞれ10個ずつオープンしたあたり。


「へ、部屋が凄いことになってきたね」

「そ、そうですね」

「これどうするの? 全部タックの鞄に入る?」


 正直、厳しい。

 いろいろ持ちすぎている僕も悪いんだけど、アバターは1着につき1枠使ってしまう。

 しかも同じアバターであっても、同じ枠に重なることはない。


 ガチャ30個分。つまり収納するなら30枠必要だ。

 今僕のアイテムボックスの空き枠は、だいたい70ぐらいかな。

 いろいろ使ってはいるけれど、消耗品なんかは1枠999個スタックできるので数が減っても枠は減らない。


 課金で買える拡張バッグは最大までセットしてあるし、これ以上枠は増やせないもんなぁ。


 そんなことを考えている間にも、アーシアとルーシアがきゃいのきゃいのとガチャを開けていく。


 拡張バッグ、更に追加とかできないかな。

 アップデート前にそういう要望もあるから検討中という、運営のコメントもあった。

 もしかして実装というか、適用されているかも!?


 そう思ってアイテムボックス最大枠を+50できる、永久版一つ2500円のバッグを買ってみた。

 メッセージボックスにそれが転送され、クリックしてアイテムボックスへ。


 ゲームならここで再度クリックすれば、アイテム枠が拡張されるんだけれども。


「こうなるのか……」


 僕は項垂れた。


 何故なら目の前に、バッグがあるから。


 アイコンをクリックすると、肩掛けバッグが出てきたのだ。

 まさかの展開。


 いや、まてよ。

 もしかしてこのバッグの中って──。


「タック、その中に服を入れればいいの?」

「まぁ、可愛らしい鞄ですの」

「あ、いやちょっと待って。確認するか──って、なんで二人とも、服脱いでるの!?」

「え? だって可愛い服がたくさんあるんだもの」

「いろいろ着てみたくなりまして」


 アーシアとルーシアの今の恰好は、町で購入したキャミソールっていうのか? そんな下着と、あとパンツ……は穿いてるよね?

 アーシアはピンク。ルーシアは水色だ。


「き、きき着替えるなら、ぼぼ、僕が見えない場所で、き、着替えてよ!」


 自分の手で目元を隠しそう訴えると、ごそごそと動く気配がして……。

 ちらりと指の隙間から見ると、二人が僕の目の前に。


「み、見てもいいんですよ、タックさん」

「そ、そうよ。アタシたち、タックになら……」


 え

 いや

 待って


 僕だってね、男ですよ?

 28年間、恋人もいなかった童貞ですけど、男ですよ?


 そ、そんなこと言われたら、お、抑えられないことだって──。


 そ、そうだ。これはリアル。異世界だからリアルなんだ。

 ほら、僕ってコミュ症だったろ。

 ゲーム内は直接人と顔を合わせないから平気だったわけで、リアルは怖いじゃん。


 ほらほら。二人は二次元キャラじゃなくって、三次元。

 本物なんだって。現実なんだって。


 そう言い聞かせてるのに興奮が収まりませんうわあぁぁぁぁぁっ。


「ガ、ガチャ開けよう! ほら、パッカーン──」


 その場に転がる未開封のガチャを開くと、中から出てきたのは純白の──


「ウェディングドレス……」


 なんでこんなタイミングでえぇぇっ!


「わっ。その服綺麗っ」

「それはなんていう衣装なのですか?」

「ねぇねぇ、教えてよタック」

「教えてくださいタックさん」


 ぐいぐい来る二人に、僕はもう答えるしかなかった。


 婚礼衣装だ──と。


「こ、婚礼!?」

「で、ではこれは、愛する方と結ばれるための儀式で着る衣装なのですね」

「い、一着よね」

「そうですの。一着しかないですのよ」


 バチッ。

 今そんな音が聞こえた気がした。


 純白のドレスの裾を掴み、今アーシアとルーシア姉妹が火花をまき散らす。


「いやいやいや待って。喧嘩はよくないから。ウ、ウェディングドレスが出るまで、ガチャればいいんだから。ね?」

「もう一着出るまで?」

「まぁ、それはいい考えですの」

「ほ……よかった」


 そうして99連ガチャを全部オープンさせ、結局二着目は出ず。

 再び姉妹でドレスを巡って争い始めたので、僕は慌てて99連ガチャをもうワンセット購入。


 機嫌をよくした二人は、その最初の一つ目でさっきとは別バージョンのウェディングドレスを引き当てた。

 今度はどっちがどのドレスを着るかで、揉めないでくれよぉ。


「アタシこっち」

「私はこちらがいいですの」

「お、好みが分かれたね。よかった、これ以上喧嘩されなくって」

「「じゃあ着替える」ですの」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る