第48話

「"フレイムバースト"」


 広範囲の炎のスキルで、グリードの表面を焼く。

 正直、水属性モンスターに火属性攻撃は効果がない。

 だけどそれはダメージという点でのことだ。


「今のうちに!」

「おおぉーっ」


 半魚人の城を出て港に戻った翌日、朝からクルーズ船でグリードが暴れる海域へやってきた。

 準備は万端。

 夜の間に全員の装備を新調して、各種ポーションも配ってある。

 戦闘前にはミーナから貰ったおにぎりでステータス強化。

 課金アイテムで1度だけ戦闘不能を身代わりしてくれる、『身代わりのお札』も三枚ずつ彼らに渡してある。

 そして打ち合わせもしっかりやった。


 僕と学者がグリードの粘膜を焼き、お姫さまは回復をメインに、無理しない程度にたまにフレイムを挟んでもらう。

 学者は30秒ごとにフレイムを。僕はフレイムバーストの合間に、効果の高い雷属性の攻撃も行う。


 実は火属性が付与されている武器での攻撃も、粘膜には効果がある。

 そのことも知っていたけれど、実はこれ、粘膜を燃やした後が非常に残念なダメージになるので悪手なんだよね。

 火属性のスキル攻撃が効果ないということは、火属性が付与された武器による物理攻撃も効果がない。

 粘膜を燃やせても、その後のダメージが通らないのなら意味がない。


 正しい攻略は、火魔法で粘膜を焼き、雷属性を付与された武器で攻撃する。


「"サンダー・アロー"!」

「"バッシュ"!」


 稲妻を纏った矢が、グリードの触手に向かって放たれる。

 ルーシアはいつの間にか、新しいスキルを習得したようだ。

 アーシアのバッシュも雷属性が上乗せされ、パリパリと音を立てて触手を感電させる。


「はははははは。蒼い雷光ブレッド──参るっ」

「恥ずかしいネーミングはおやめくださいブレッド様」


 アーシアとルーシア、そしてレベルの高いブレッドにアリアさんの4人には、僕が直接武器にエンチャントを施している。

 効果時間は5分なので、これを全員にかけていたらそれだけで手いっぱいになってしまう。

 アーシアルーシアのほかにブレッドたちにも付与したのは、単純にこの二人の物理攻撃力が他の人たちを圧倒しているからだ。


 さて、そろそろフレイムバーストの更新時間だ──


「"勇敢なる者たちへ、神の祝福を──ラァーララー"」


 低音ボイスが聞こえてきた。その瞬間、僕の視界にシステムメッセージが浮かぶ。

戦歌バトルソング状態になりました。スキル『ものまね』を発動しますか?】──と。


 ものまね!?

 エタノビのスキルのあれか。

 いや、戦歌ってなんのこと?


 さっき聞こえてきた、アレが歌ってこと?

 いったい誰が。

 そう思って辺りを確認すると、船乗りのひとりが魔法を使っているのが見えた。


 戦歌。もしかして神官戦士のスキルなんじゃ。

 ただ今はそれを確認する暇もない。


「"フレイムバースト"」


 クルーズ船の上からグリードに向かって炎を爆発させ、皮膚の表面を守る粘膜を燃やす。

 間髪入れず次は「"ライトニング"!」だ。

 フレイムバーストのターンになるまで、そしてライトニングの再使用が可能になるまで、スパークとサンダーで繋げる。


 触手の数は10本。

 これを1本ずつ──ではなく、手あたり次第切り落としていった。

 全部切り落とせば今度は本体が登場。

 ゲームと同じ展開だな。とすると、攻撃パターンが変わるタイミングも同じかもしれない。

 今のところ、毒も麻痺も来ていないし。


 船の外──凍った海面では、船乗りと、そして半魚人たちがグリードのHPを確実に削っていく。

 僕にだけ見ている奴のHPバーが残り30%になったとき、

 

「そろそろ状態異常攻撃が始まります!」

「は、はいっ」


 半魚人の姫が緊張した面持ちで返事をする。


『オボォロォォォォォォッ』

「きた!」


 各触手の先端にある口から、からし色のガスのようなものが放出された。

 やっぱりだ。ゲームと同じ仕様なんだ。

 とすればからし色のあれは麻痺だな。


「ガスが消えたら!」

「し、承知しました──」


 ガスはすぐに晴れる。ガスを吸ったからといって全員が麻痺するわけじゃない。確率なのだ。

 氷の上で健在だったのはブレッドとアリアさん、それと船乗りが三人ほど。

 アーシアも動けないのか。


「姫君、回復を」

「い、いきますっ。"状態回復リカバリー・ヒール"」


 ブレッドの合図でお姫さまはスキルを使用。

 船上からでは届かないメンバーには、僕がテレポートを使って瞬間移動をし、同じく状態回復を使った。

 そして再び船上へと戻って攻撃を再開する。


 その繰り返しだが、着々と奴のHPは減っていき、やがてレッドゾーンまで到達した。

 ここまでずっとゲームと同じパターンだった。

 このまま終わるのだろうか?

 本当にリアル異世界でそれはいいのだろうか?


 不安が過ぎる。


 ゲームなら最大24人パーティーのイベントで、僕たちは今、それ以上の人数で戦っている。

 それによって何か変化が生じるんじゃないかと……僕は不安になった。


 不安にはなったけれど。


「"サンダー・アロー"!」

「はっはっはっはっは。舞え、紅血乱舞ブラッディー・ロンド


 ルーシアと、そしてブレッドの技が、グリードのHPバーを漆黒に染め上げた。


『グ、グゴ、オアァァァァッ』


 グリードはタコのようなイソギンチャクのようなアメーバのようなその巨体を横たえ、周囲の氷を破壊しながら海中へと沈んだ。

 何人かが沈むグリードの渦に巻き込まれて海中へと落下したが、直ぐに半魚人たちが救出。

 アーシアは素早く逃げて無事だった。


「わ、私の勝利ですのね」

「姫さま、我らの勝利ですぞ。そうでしょう、タック殿」

「え、ええ。これで無事に船も渡れるでしょう」


 ほんのちょっぴり、拍子抜けだったのは内緒にしておこう。

 まぁ、みんな無事でよかった。






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