第47話

 半魚人は自分たちだけではグリードを倒せないからと、人間に協力をお願いしようとしていたところに来たのが僕たち。

 彼らは共闘を申し出てくれたが、ただ数が多いだけだと邪魔になる。

 なので、インターフェイスでレベルの高いほうから何人かを選ぶことにした。


 それから一度港へと戻り、ゆっくり体を休めることにした僕たちだけども……。


「きゃあぁぁぁっ」

「な、なんで半魚人どもが港に!?」

「沖の化けモノの仲間か!」


 屈強な半魚人たちが同行したもんだから、さぁ大変。


「がーっはっはっは。大丈夫だ、大丈夫。彼らは俺たちと一緒に化けモノと戦ってくれる仲間だ」

「そうだとも。同じ海の仲間だ」

「おー、そうだそうだ」

「一緒に戦うゲコ」

「「なんだ、そうだったのか」」


 全然大変じゃなかった。


 同行する半魚人は、レベルが35前後の20人ほど。

 その中には──


「ここが人間の方々が住む、町というのですね!」

「ひ、姫さまっ。あまりきょろきょろして迷子になりませぬよう」


 半魚人のお姫さまと、家臣の学者のおじさん(?)も一緒だった。


 この二人、ステータスを見ると無駄に魔力が高いんだよね。

 だけど半魚人は魔法が使えないという。

 正確には、学者のおじさん曰く、


「我らは大昔から魔法を使える者がおらず、使える者がいないから伝える者もいない。その結果、我が一族は誰一人魔法を知らぬ……という訳なのです」


 とのことだった。

 現実として考えれば、確かに教えてくれる人がいなければ学ぶこともできないものな。

 

 そんな魔法が使えない、だけど無駄に魔力の高い二人をなぜ連れてきたのか。

 もちろん──


「じゃあ学者さんはこの指輪を。お姫さまはこっちの指輪と、この腕輪を装備してください」

「まぁ、なんて綺麗なんでしょう。タックさまがこのような物を贈ってくださるなんて……」


 いや待て。なぜそこで青い肌の顔を赤く染めるの?

 あとアーシアっとルーシアがめちゃくちゃこっち睨んでいるんですけれど?






「まぁ、私としたことが、とんだ早とちりだったようで」


 宿に戻って装備の件を説明したんだけども、だからなぜそこで頬を赤らめる。

 僕は魚を見て興奮する趣味は持っていないから。


「お姫さまと学者さんは魔力が高いので、魔法で後方から援護してもらいたいんです。その指輪や腕輪には、魔法が封印されています。スキル名を唱えるだけで発動する、簡単なものですから」


 簡単に誰でも魔法が使える。

 ただしダメージ量はステータスに依存。

 だから僕が持つガチャ産装備を二人に持たせ、グリードの粘膜を燃やすための魔法職要員になって貰う。

 正直、僕ひとりだとMP切れの心配もあったから助かったよ。


「なんだ。例の魔法リングだったのね」

「私、てっきり特別な贈りものかなにかだと思ってたです」

「……学者さんにも渡してるじゃないか……」

「ぽっ」


 いや待て学者!

 今、ぽっとか言ったか? ねぇ、言ったか?


「こ、こほんっ。封じられている魔法の説明をしておきます。いいですか?」

「はいっ、よろしくお願いしますタックさま」

「よろしくお願いいたしますぞタックさま」


 まずは学者に渡したリング。

 一つは『フレイムリング』。消耗品で、10回使えば壊れてしまう。


「これを10個渡しておきます」

「じゅ、10個?」

「説明した通り、10回使うと壊れてダメになるんです」

「……あの、タック殿。これは簡単に手に入るものなのですか?」

「はい。ガチャでいっぱい出ます。ゴミです」


 学者が僕の言葉を信用できないとばかり、アーシアたちの方をみる。そして彼女らは首を左右に振る。

 いや、ゴミだって。


「お姫様にも同じフレイムリングと、こっちの腕輪は『慈愛の腕輪』です」

「じあい、ですか?」

「はい。状態異常攻撃を受けた者を回復させ、その上で持続性の小ヒール効果があります」

「まぁ、癒しの効果なのですね」


 しかも範囲効果だ。


 グリードには毒と麻痺効果のある体液を吹きかける攻撃がある。

 しかも狭いけど、範囲攻撃だ。

 毒はまだいい。持続ダメージを食らいつつ、行動は出来るから。

 問題は麻痺だ。

 ヒーラーの状態異常回復スキルを貰うか、一定時間を経過するまでは動けない。

 攻撃をされても動けないから厄介なんだ。


 この腕輪もガチャ産だけど、消耗品ではなく永久品だ。

 ゲーム内ではかなり高価な値段で取引されていたけど、三つ持っているのでお姫さまに一つ贈ることにした。

 装備ロックが掛かってしまうけれど、そこはもう割り切ることに。


「お姫さまはグリードには近づかないように。回復役が麻痺したら、パーティーは全滅すると思ってください」

「じゅ、重要な役なのですね」

「そうです」

「大丈夫ですお姫様。私がしっかりグリードを押えますですから」

「まぁ! アーシアさまは前衛として戦うのでございますか?」

「はいっ」


 にっこり微笑むアーシアを見て、お姫さまは感動したように目をうるうるさせる。

 目から鱗……まさにこのことだろうか。


 二人に魔法の使い方を教え、この日は解散。

 これから二人は海に戻るのかと思いきや……。


「宿に泊まろうかと思うのです」

「「え?」」


 思わず僕たち三人が声をあげる。


「姫さま、いくらなんでも陸で一夜を過ごすなど」

「嫌ですわっ。私も陸のベッドで眠ってみたいのですぅ」

「みなさまからも何か言ってください。これ姫さまっ」


 陸のベッド。それだけのためなのね。


「じゃあ、僕の船を使いますか? 船なら海も目の前ですし、何かあれば飛び込めばいいでしょう」

「まぁ! あのお舟に泊まってもよいのですか?」

「それはありがたい。なにからなにまでありがとうございます、タック殿」


 ベッドで眠ってみたいなんて、お姫さまとは思えない、ささやかな願いじゃないか。

 それぐらい、叶えてやってもいいと思う。


 こうして一度二人を船へと案内し、一緒に来ていた半魚人の戦士らも船に泊めてやることにした。

 再び宿へと戻って来たのは、ずいぶんと遅くなってから。


「はぁ、疲れた」

「お疲れ様タック」

「お姫さま、喜んでいましたね」

「はは、そうだね」


 ゲストルームではない、主寝室をお姫さまがひとりで使うのだけど、この部屋のベッドはかなりふかふかだ。

 酔った船乗りに占領されていたので、僕もまだ使ったことがない。

 お姫さまはそのふかふかのベッドで飛び跳ね、びちびちしていた。お気に召したようだ。


「そういえば、半魚人って水の中でどうやって眠っているのだろう?」

「どう……やってかしら?」

「私も知りません。半魚人もある意味、私たち獣人と同じく亜人の類ですが。陸と海と、生活拠点が違うと、何も分からないですの」

「獣人と半魚人が同じ扱い……うぅん……うぅぅん」


 僕には目の前のアーシアとルーシア、そして半魚人のお姫さまが同じだとはどうしても思えなかった。





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