第46話

 竜宮城と言えば乙姫さまでしょ?

 でもまぁ海の中だし、そこで想像するのは人魚姫。マーメイドですよ、マーメイド。


「みなさま、ようこそお出でくださいました。ぶくぶく」

「……はぁ」


 やって来た竜宮城は、日本家屋でもなければ西洋のお城でもなく。

 海の岩をくり抜いで作られた、何か。

 サンゴや海藻で飾られて、まぁ見栄えは悪いってほどでもないけれど。


 そんな岩くり抜き城の奥で僕らを出迎えてくれたのは、乙姫様でも人魚でもなく……


 緩やかに波打つ、金色に輝く美しい髪の──半魚人だった。


 胸があるので雌だってのは分かる。


「これは、なんと美しい半魚人の姫君だろうか。そう思わないかい、タックん☆」

「え!? 振るの? そこ、僕に振るの!?」


 あの金髪は綺麗だと思うよ?

 でもそれ以外の部分が邪魔して、何がどう美しい姫君なのか分からないよ!

 っていうか姫なのこの半魚人?


「うふふ。ありがとうございます。でも今はそのようなお話をするために、皆さまをここへお招きしたのではありません」


 そりゃそうだろう。


「それで、グリードというのは、今人間の港でも騒ぎになっている、船の航海を邪魔しているモンスターのことなんですよね?」


 僕の質問に半魚人の姫(?)が頷く。


「人間の皆さまの船を襲っているのはグリードというモンスターです。普段はもっと外洋の深海で生息しているのですが。私どもが知るグリードは、もっと小さなものなのです」

「小さい?」

「はい。このぐらいに」


 半魚人の姫(?)が、自身の肩幅ほどに手を開く。

 じゃあ今はどのくらいなのかと尋ねると、ここの半分ほどだと説明する。

 

 そのサイズはというと決して小さくはない。

 港で見た帆船が何隻すっぽり収まるだろうかってサイズだ。

 グリードというのがその半分だっていうなら、かなりの巨大モンスターだな。


「おっほん。わたくし、姫様の教育係の学者でございまして。わたくしの方からご説明いたしますと──」


 あ、この雌半魚人、お姫さまだったのか。

 なんとなくスッキリした。

 

 その学者半魚人の話だと、深海生物が上の方に上がって来ると、体のサイズが大きくなるという話だ。

 大きくなった体を維持するために食欲が増し、近隣の海域の魚を食べつくして──


「そして内海である、我らが住まうこの海域に来てしまったのですじゃ」

「魚だけでは食べ足りず、船も襲うようになってしまったってことね」

「海の中でも大変なことが起きていたのですね」


 半魚人がみな、顔を伏せて項垂れていた。

 話を聞いてから改めて彼らを見ると、どことなく痩せ細って見える気がする。


「心配しなくてもいいですよ、美しい人。ボクの心の友タックが、そのグリードとやらを倒してくれるからね☆」

「え!? ブ、ブレッド。そこ勝手に決めつけないでくれる?」

「おや、倒さないのかね?」

「いや、倒すけど。最初からそのつもりでレベル上げをしているわけだし」

「レベル?」


 おっと、レベルの概念はこの世界の人にはないのだから、言ったって分からないんだった。


「まぁ、そうだったのですか!? で、ではぜひ、これをお持ちくださいっ」

「人間の方々は水中での呼吸ができますまい。このコンブがあれば水中呼吸が可能となります。そしてこのブーツを」


 昆布がさっき僕らが貰ったのと同じもの。

 ブーツは僕も持っている装備で、これを履いて水近くに行くと、周辺が氷になるというモノだ。

 イベントガチャ装備で、実はネタに近い装備だ。


 水の上を歩ける──ここだけ見れば便利装備だけど、水の中に潜る必要のあるマップもある。当然、これを履いていると潜れないし、潜っている人の上の水を凍らせれば浮上できなくなって窒息死する。

 これを使った迷惑行為も結構あったんだよねぇ。 


「他に仲間が19人いるのだが」

「まぁ、お仲間さまが多いのですね。頼もしい限りです」

「では人数分ご用意いたしましょう。しばしお待ちくだされ」


 ゲームだと船の上から攻撃できたけれど、これなら海からでも攻撃できるかもしれない。

 

 運営はなぜ、新マップ実装イベントガチャでこれを出さなかったのか。

 なんでイベント終了後に……。

 もう少し早く出してくれれば、ネタ装備にならなかったかもしれないのにな。


 アイテムの準備が整うまでの間、僕らはグリードについての情報を集めた。


 まずグリードは──


「雷属性に弱いですわね」

「まぁ水棲生物だもんね、分かり切った内容かな」

「じゃあそのグリードって奴の攻撃パターンとかは?」


 ルーシアの質問に、半魚人の兵士たちが答えてくれた。


「触手の先端に口がありまして、何でも呑み込んでしまうのです」

「皮膚は粘膜に覆われていまして、そのせいで我らの武器も歯が立ちません」

「え? じ、じゃあ私の剣も使えませんか?」


 半魚人兵士の言葉にアーシアの顔が青ざめた。

 兵士の持っている武器は三俣の槍だ。槍がダメで、剣がいいとは思えないもんね。


 でもまぁ粘膜か。

 それに関しては大丈夫じゃないかな。


 新エリア実装の記念イベントで倒したグリードも、やっぱり物理ダメージが効果が薄いというのはあった。

 ただし、ある攻撃をした後だけは別。

 これはイベントモンスタースレでも書かれていたことだ。


「それに関してはたぶん大丈夫だ」

「え? 本当ですのタックさん?」

「うん。任せておいて」


 僕は思い出す。

 イベントボス討伐スレに書かれていた内容を。




 555 名前:名無しの冒険者 

   グリードの触手に火属性攻撃したあと30秒だけ物理攻撃有効

   範囲で燃やせばどの触手も物理が有効になったぞ




 つまり粘膜は、火で燃やせる。



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