第45話

 翌日から地下3階でレベル上げを始めた。

 アーシアとルーシアにとっては少しだけ背伸びした狩場だけど、ここは水棲モンスターしか生息していない。

 つまり水属性モンスターに限定された狩場。それに対応した装備があれば、それほど苦労することもない。


 アーシアの剣に雷属性を付与し、ルーシアには風矢という属性矢をあげておく。


「その矢筒に500本入ってるから」

「分かったわ。それにしてもタックがくれるこの矢筒って凄いわね。小さいのに500本も入るし。それに」


 ルーシアが言うには、矢筒に手を添えると矢が一本自動で出てくる。その時に残り本数が脳裏に数字として浮かぶんだとか。

 ゲームだとショートカットに矢筒をセットすることで、使えるようになる。残数はショートカットのアイコンに小さくでているのでそれで確認するような仕様なんだ。

 ショートカットの小さい文字だと見間違うこともあるけど、脳裏に数字が浮かぶならそっちの方が正確そうでいい。


 船乗りたちも何人かのグループに分かれて、地下3階層を攻略。

 なるべく狩場が被らないように移動して、僕らは固定砲台を始めた。


「ルーシア、釣ってっ」

「オッケー」


 遠距離からルーシアが矢でモンスターを射る。するとモンスターが怒ってやって来る。それをアーシアが雷属性が付与された剣で斬る。

 この一連の動作でモンスターはだいたい死んだ。

 ルーシアが視界に入るモンスターを次々と引き寄せ、アーシアが止めを刺す。


 じゃあ僕はどうしているのかって言うと、ルーシアが見ている方角と逆のモンスターの清掃活動だ。

『サンダー』一発で倒せるので、消費MPも少なくて済むし、じっとしていればMPの回復も早い。

 固定砲台楽しいねぇ。


 時々わっと湧くこともあるけれど、その時は雷属性の範囲攻撃『ライトニング』一発で全部終わる。

 こういう属性が偏ったマップは大好きだね。


 経験値チケットもしっかり使って、その日の晩には僕のレベルは36に。アーシアとルーシアも34まで上がった。

 明日は午前中だけレベリングして、午後から一度港に戻って準備をしよう。






「地下4階……行ってみたい気もするな」


 午前中だけレベリングをする予定で3階へ。昨日よりもう少し奥に行こうと進んでいると、4階へと降りる階段を見つけた。

 長い階段は途中で真っ暗になって下の階まで見ることができない。

 ゲームでは海中ってことになっているんだけども、現実として考えると呼吸どうすんのって感じだし。


「下りてみますか?」

「アタシもどんなモンスターがいるのか、興味あるわ」

「じ、じゃあ行ってみようか。水中で呼吸できないようなら、諦めて引き返そう」

「え? 水の中で呼吸ができないのは当たり前なのでは?」

「この下って水の中なの?」


 うぅん。説明が難しいな。

 とにかく階段を下りよう。下りればその答えが分かるのだから。


 ランタン片手に階段を下りていく。

 ひたり、カツーン……ひたりカツーンと足音が鳴るけれど、このひたりって誰の足音だよ!?


 ま、まさかモンスターが上ってきている!?


 僕は慌てて初心者の杖(レジェンド素材合成)を構え、初撃に備える。

 見えたら速攻で『サンダー』レベル10をぶっ放してやるからな!


 だけど不思議なことに、階段下から明かりが上って来るのが見える。

 提灯アンコウみたいなモンスター?


 途中でカーブした階段下からぬぅっと現れたのは、樽のような体形をした何かだった。


「おみゃーら、人間……と獣人ゲラね」

「喋ったぁーっ!?」

「半魚人なのですタックさん」

「は、半魚人?」

「半魚人ゲラよ」


 ゲラってなんだろう?

 ひたひたという音は、この半魚人の足ひれだったみたいだ。

 その半魚人は僕と同じようにランタンを持ち、だけど中に火は灯されていない。

 小さな石みたいなものが発光しているようだ。


 そういえばこの海底ダンジョン。最下層の4階の奥には竜宮城みたいなものが見えていたっけ。

 壁があってよくは見えなかったけど。

 半魚人のモンスターもいなかった。水属性モンスターの定番ともいえる種族なのに。


「ゲラゲラ。おみゃーら、強い人間と獣人か?」

「ど、どうだろう?」

「弱くはありませんですの」

「強かったらどうだって言うのよ」

「ゲラゲラ。おみゃーらが強い人間なら、グリードを倒して欲しいゲラ」


 そこで僕の視界にはシステムメッセージが浮かんだ。


【クエスト:『半魚人の町を守れ』が発生しました】

【クエストを受諾しますか? はい / いいえ】


 え?

 ここでクエスト!?

 っていうか半魚人から依頼って……。


 受諾する前に話を聞こう。


「グリードについて知っていることがあるなら、教えてください」

「分かったゲラ。じゃあわいについてくるラよ」


 そう言って半魚人は階段を下りていく。

 その時、階段の上から声がした。


「心の友よ、その下は海水で満たされている。行っても無駄だよ☆」

「ブレッド。実は半魚人がいて──」

「半魚人!? それはぜひ、お友だちになりたい!!」


 半魚人と友だち……。

 そういえば彼は、何故獣人の国を作りたいなんて思ったんだろう。

 アリアさんのため?

 だけどブレッドは人間だし……よく分からない人だ。


「近くの船乗りに知らせてまいります。皆様は階段の下でしばしお待ちください」

「頼むよアリア」

「ブレッド様のためではございませんので」


 アリアさんはぷいっと背を向け走って行ってしまった。


「ふふ。照れ屋さんめ」

「アタシ、絶対に違うと思うの」

「私もそう思いますの」


 僕もそう思うよ。

 

 ブレッドが言った通り、階段の途中から水没していて──


「おみゃーら、陸の生き物。これ咥えるゲラ」


 半魚人の手には酢昆布みたいなのが握られていた。

 これを咥えて噛むと、いっきに酸素が出てくるという。


 水に顔を付けて昆布を噛むと、確かに顔を覆うほどの酸素が出てきた。なのに気泡は顔に張り付いたまま、水面へと浮かぼうとしない。

 おっかなビックリだけど、僕らは昆布を咥え水中に潜る練習を暫く続けた。

 そうこうするうちにアリアさんとも合流し、彼女はあっさり昆布に慣れていざ水中へ。


 泳ぐのではなく海底を歩いて進む。


 そこは紛れもなく海の中。

 海底ダンジョン地下1階から3階までの移動の間に、いつの間にか島の外側にまで来ていたのかもしれない。

 ゲームをプレイしていた頃は、そんなこと考えたりしなかった。


 半魚人の案内で、僕はゲーム時代には行くことのできなかった壁の奥──竜宮城とプレイヤーに呼ばれていた場所へとやって来た。

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