第44話
地上に戻るタイミングは、二度空腹になったら。
一度目はダンジョン内で食事をし、二度目は外に出て船へと戻った。
「あ、もう他の人たち戻って来ているね」
「食い意地が張ってるから、案外すぐお腹が空いて戻ってきたんじゃない?」
「私たちは、ちょうどいいタイミングだったようですの」
空が赤みを帯びて夕方だというのが分かる時刻。
戻った船ではNPCが律義にお辞儀をして出迎えてくれた。思わず僕も頭を下げる。
『船内のお酒が切れてしまいました。追加補給いたしますか?』
「へ? き、切れたって、無くなったってこと!?」
NPCが頷く。
うそん。え、じゃあ──
船内に入ると、そこはお酒の匂いがぷぅーんと。
「およよ。坊ちゃまがご帰還だぜ野郎ども!」
「おぉー。タック坊ちゃん、おかえりなさいませーっげひゃひゃひゃ」
「タック坊ちゃんよぉ。綺麗なおにゃーの子と一緒だったんだぞぉ。男になったか? な? なぁ?」
……デキアガッテヤガル。
『追加補給いたしますか?』
「「いたしまーす!」」
「いたしません! お酒ダメ。禁止っ」
「「えぇぇぇぇっ!?」
『畏まりました』
NPCが僕のいうことを素直に聞く仕様でよかったよ。
『もう一つ──』
「まだあるの!?」
『船内の食糧が切れてしまいましたが、追加補給はなさいませんか?』
「食料!? し、しますっ。してください!!」
『では150Lポイントを頂戴いたします』
課金扱い!?
まぁいいけど。150Lポイントって150円だし……船内の食糧って、150円の価値しかなかったのか。
それにしても、お昼の弁当にそこまで使ってたのかな。
そりゃあ船乗り19人分となると、結構な量だったろうけど。
「やぁやぁタック。心の友よ♪」
「ブ、ブレッド」
「夕食はアリアが用意しているよ。悪いと思ったが、食材は使わせて貰った☆」
「あぁ、なるほど。夕食にも使ったんだね。うん、それはいいけど……そっちはいつぐらいに帰ってきたんです?」
「ん。だいたい30分ほど前だろうか?」
30分であそこまでデキあがってるの!?
「はっはっは。船乗りなんてあんなものだ♪」
「まぁ、イメージ的にはそうですよね。はは」
「ブレッドさま、私も食事の支度、お手伝いしましょうか?」
「あぁ、それは助かると。この人数分をアリアひとりでは大変だろうし。既にアレはイライラしているし」
と、ブレッドは遠い目になる。
アーシアは苦笑いを浮かべながら、ルーシアを連れて船内の厨房へと向かった。
ルーシアも料理をするのだろうかと思ったら、厨房に出入りしてつまみ食いをしようとする船乗りたちを撃退するための要員のようだ。
晩御飯を待つ間、時々ルーシアの怒鳴り声が聞こえてきた。
そんな声を聞いて、僕とブレッドが肩を竦めて笑う。
「どうだい。水棲モンスターとの戦闘には慣れたかい?」
「あ、はい。雷属性の魔法が利くので、苦労はしていません。ブレッドさんはその……剣士ですよね?」
「うん。ソードマスターだけどね☆ミ」
うげっ。ソ、ソードマスター!?
職業アイコンで見た時には剣マークだったけど、なるほど。よく見たら普通の剣士のマークと少し違う。
ソードマスターは剣士の上位職。
この人、ただ者じゃないな。
「君は……魔術師のようだけど魔導師の魔法も使うようだし。だけどその二つのどちらでもなさそうだね?」
「え……あ、ま、まぁ。ははは」
エターナル・ノービスがバレてる?
そもそもこの世界にエタノビって存在するのかな。
食後、ブレッドといろいろ話す機会ができた。
何故獣人を連れているのか。
「僕が森の中で死──気を失っていて、それを助けてくれたのが二人なんだ」
「奴隷の首輪をつけているようだが?」
「……えぇっと」
「逃げてきたのか。まぁ賢明な判断だな。獣人の、しかも若い女性が奴隷商人に捕まれば、ロクな目に会わないからね☆」
「じゃあブレッドは?」
アリアさんは奴隷の首輪をしていない。
だけど侍従関係にあるし、どういういきさつなんだろう?
「彼女とは十年前に出会ったんだ。ボクの家に仕えていてね。といっても、自らの意思で仕えていたわけじゃない」
つまり、奴隷として働かされていたってことだろうか。
年齢が近かったこともあって、ブレッドとアリアさんはいつも一緒にいたらしい。
アリアさんがブレッドの護衛──だったのだけど、ブレッドも幼いころから剣術を学んでいて、護衛は必要なかったんだとか。
そうだよね。上位職のソードマスターだし。
そういえば、冒険者を見ても上位職はひとりも見ていない。
ゲームのようにレベルをカンストさせれば転職できる。そんな簡単なものじゃないのかもしれない。
そもそもこの世界の人たちは、自分たちにレベルだのステータスだのがあることを知らないのだから。
最後にブレッドは、西の大陸に渡る目的を話してくれた。
「アリアの故郷に行くんだ。そして……獣人の国を作る」
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