第43話


 港を出発して20分。

 かすかに見えていた島までいっきにやって来た。

 クルーザーは手漕ぎじゃなくエンジンで動く。

 ファンタジーな世界なのにエンジンとか非常識!

 なんてのはMMOには通用しない。そして僕だけゲーム仕様のまま。エンジンだって大いにありなわけですよ。


 だけどこの世界の人たちには刺激が強すぎたようだ。


「漕ぎ手はどこだ!?」

「な、なんなんだこのスピードは!?」


 みんなハイテンションでクルーザー内をうろうろ。

 船内には豪華なソファーにビリヤード台、ラウンジもあって大興奮!

 が、僅か20分で島に到着した。


「か、帰りもこの船に乗れるんですよね!?」

「え? 寝泊まりもここ? な、なんと!?」

「すげー。すげー」


 カプセルホテルのようなベッドが10人分ほどある。他にもソファーとかあるし、起きて見張りをする人数を考えれば十分足りると思う。

 

 島に上陸してすぐ、モンスターの歓迎を受けた。


「はっはーっ! てめーらなんか俺らの敵じゃねーぞオラァ」

「死ねやーっ!」


 船乗りの皆さん……まるで悪党みたいです。

 っと、あいつらはレベル26モンスターだったよね。

 モンスターが船乗りと戦闘状態になったことで、頭上にHPバーと名前、レベルが表示された。


 タツノオトシゴのようなモンスター、【タッツノ】LV26。

 毛玉のように見えるが実は海藻【シ・リーフ】LV26。


 元々レベル30超えの船乗りが負けるはずもなく。


「っしゃーっ!」

「勝ったぜえぇーっ!」


 船乗りって、賑やかだなぁ。






「じゃあ別行動をとるのかい☆?」

「は、はい。僕らは皆さんより少し実力が下がります。だからまずは二階でレベ……戦闘になれようかと」


 だけど少しでも船乗りの皆さんのレベルも上げて欲しい。

 彼らには一足先に三階へと降りて貰って、そこでレベリングをして貰おうかと。

 

 アーシアルーシアの二人のレベルを最低でも35まで上げるとして、三日ぐらいかかるかなぁ。

 

「じゃあ三階に下りたらこの紙を破ってください」

「破るんですかい? あぁ、使用するときは破れって書いてますね」

「それとこれ。迷宮から一瞬で脱出するためのアイテムです」

「こ、これは!?」


 船乗りの皆さんが驚く。ブレッドとアリアさんも少し驚いていた。

 これ、課金アイテムなんだけど、彼らも知っているような?


「これは古代技術で作られた、超がつくほど貴重なアイテムだね☆」

「このような物をお持ちだなんて……タック様はどこぞの国の王族?」

「いやいやいや、い、一般人です! こ、これは──」

「これはタックが冒険の中で手に入れたものよ。ね?」

「そそそそ、そうっ」


 超がつく貴重なアイテム。しかも持っているだけで王族に間違われるって、いったいどのくらいの価格で取引されてるんだよぅ。

 正直この迷宮脱出のオーブって……ガチャでは外れアイテムなんだけどなぁ。

 だから965個あるんだよ。

 こういう消耗品は1スタック999個だから、もうすぐワンスタック溜まるな嫌だなって思ってたぐらい。


 パーティーのうちのひとりが使えばいいアイテムだけど、異世界だとどうなるんだろう?


「と、ところでみなさん。使い方は分かってますか?」

「使用する者に触れていればいいんだよ☆」

「そ、そうです! ……も、もう二個ぐらい渡しておきます」

「「えぇえぇーっ!?」」


 驚く船乗りたち。

 本当は人数分渡したいぐらいだけど、さすがにそれはマズそう。

 二個追加しただけでこの反応だし。


 他にもポーション──これは元のゲームで友達だったメーナが製薬してくれたポーション。店売りよりちょっと良い程度の、しかも下級のポーションだ。

 それを五十本渡しておいた。


 ダンジョンの入り口は島の中心にあって、奥に進むほど動物や植物タイプのモンスターに変わって来る。

 だけどレベルは26のまま。

 入り口まではすぐに到着し、二階までは全員揃って移動した。


 二階からは別行動になる。

 行動としては環状線のような構造で、階段を降りると洞窟は左右に伸びていた。


 船乗りとブレッドたちは右周りで、僕らは左回りで進む。

 こうしないと僕らの獲物がいなくなるから。


「ではまた後で☆ミ」

「う、うん」


 いちいちウィンクしなくていいよ。


 彼らが歩き出してから、僕らは経験値二倍のチケットを──破いた。



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