第40話
「え? 船が出ない?」
三人で市場を見て回り、いろいろな屋台で美味しそうな物を買い漁って、海を見ながら食べようと船着き場へとやって来た時のことだ。
随分と停泊中の船が多いなぁと思ってみていたら、筋肉ムッキムキなおじさんが大きなため息を吐いていたので思わず声をかけた。
「一週間前から、ここの沖にデッケー化け物が出るもんでなぁ」
「化け物?」
モンスターのことだよね?
「船を襲うんですか?」
「おう。何隻か沈められてな。大型船は無事だが、それでもほれ──」
ムキムキおじさんが指さすのは、見上げるほどの帆船……のはずなんだけど、マストが二本ぐらい折れてる。他にも木造の船があちこちボロボロ。
素人でも分かるよ。
これ、このまま出航したら沈没するやつ。
うわぁ、修理費いくらになるんだ。大変だなぁ。
「冒険者ならいくらでもいるじゃない。雇って倒して貰えばいいんじゃないの?」
「そりゃそうなんだがな。けどな嬢ちゃん。化け物は海の中だ。海の中から足だけ伸ばしてきて船を襲うんだよ。そんな化け物をどうやって倒すかって話だ」
「足? じゃあイカみたいなモンスターですか?」
「いや。ありゃなんだろうなぁー」
分からないのかよ!?
すると近くにいた他のマッチョマンがやって来て、あれはタコだという。
だけど他のマッチョマンが、タコじゃねーよウツボだ、と。
そして他のマッチョマンがイカだと言えば、別のマッチョマンがイソギンチャクだと。
分かるかモルァ!
えぇっと、とにかく本体は海の中で、手だか足だか触手だかを伸ばして船を襲うんだろ?
あぁー、あぁー、あっ。
「グリードだ! 長い触手を持った海洋モンスターで、タコでもイカでもイソギンチャクでもな……いと思う」
西の大陸がマップ解放された時、期間限定であった巨大モンスター襲撃イベントで登場した奴だ。
ちょっとグロテスクな見た目が一部の女性プレイヤーの間では不評だったのを覚えてる。
ひたすら伸ばしてくる触手を攻撃し、一本ずつぶった切っていくと、最後には本体が出てくるパターン。
懐かしいなぁ。
友人らと初めてイベントやったとき、アレスが装備入れ替え失敗して、レジェンド剣を海マップに落としてしまったんだよね。
憔悴しきったアレスのために、あの後何度ダンジョン周回したことか。
ゲームでは船の上で触手を攻撃して切り落とすんだけども、それは画面越しの作業。
パソコンの前で操作していた僕はゲーミングチェアに座って、揺れることのない画面を見ながらマウスをポチポチするだけ。
だけどここは本物の世界。
船は揺れるだろうし、破壊もされる。
敵の正体が分かったところで、倒せる気がしない。
さて、どうしたものかなぁ。
「いやぁ、まさかモンスターのせいで船が出航できないとは……南のルートを取られますか?」
宿に戻ってきて船のことをみんなへと報告した。
オセロさんにそう言われたけど、ブレッドは船旅がいいと言う。
「化け物などボクらで倒してしまおうではないか!」
「また坊ちゃまがご乱心」
二人のレベルは高い。
そして襲撃イベントに登場するグリードのレベルは──参加するメンバーのレベルによって変わる。
襲撃イベントは最大24人パーティーで参加する。
そして船に乗る際、レベルの選択肢が出た。レベル30~45、46~60、61~75、76~85、86~99。
こんな感じだったかな。とにかく難易度設定があったんだ。
ブレッドはレベルが43で、アリアさんは40。
もしゲームと同じ仕様なら、アーシアとルーシアがレベル30になっていない。
それ以前に5人じゃどうしようもないよ。
他に人手……人手……。
あ、オセロさんの護衛の冒険者。
「おいおい、物欲しそうな目で俺らを見るな。俺らはオセロの旦那の護衛だ。化け物退治に付き合ってたら、誰が旦那の護衛をすんだよ」
「そうだぞ坊主。オセロ氏は今、まとまった金を持ってるからな。むしろ人手が欲しいのはこっちなぐらいだ」
「ぐ……そう、ですよね」
ドラゴンの素材の一部を売却し、今のオセロさんはまとまったお金を所持している。
そんな人をひとりにさせたら、盗賊に狙われるに決まってるな。
じゃあどうするか。
冒険者ギルドで人を雇う?
アドバイスを貰おうと、護衛の冒険者に話を聞いてみるが、反応はいまいちだ。
というのも、やっぱり海上戦がネックだという。
「船の上での戦闘ってのは、慣れてなきゃできねーからな」
「揺れる船に乗るだけでも、酔って使えねー奴もいるぐらいだからよ」
「ボクは平気だよ☆」
「わたくしも平気です」
「いっそ船乗りを雇って戦わせた方がいいだろうな」
え……船乗りって、戦えるの?
その時ふと、さっき見た筋肉ムキムキの船乗りのことを思い出した。
あー、うん。
戦えそうだよね。
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