3章
第39話
峠の村ピタリーから港町まで、徒歩で一週間。
港町までの間、何度となくモンスターの襲撃に合ったけれど、商隊の護衛で雇われている冒険者たちがあっさりと倒してしまった。
僕たちの出番が全然ない……。
「悪いなぁ、坊主。俺たちだけで瞬殺しちゃってさ」
「い、いえいえ」
本当はめちゃくちゃ戦いたい!
戦わなきゃ経験値貰いえないんだからさぁ。
こんなんじゃ経験値アップのチケットも勿体なくて使えないし。
だけど港町までの道中に彼らからいろいろと話は聞けた。
まず冒険者ギルドへの登録について。
「登録には三つの方法でできる。まず一つは登録料──つまり金を払ってなる方法だ。結構金額が高くてな、金貨20枚。つまり2万Lだ」
「「に、にまん!?」」
アーシアとルーシアが目を丸くした。
2万Lってことは……日本円で換算すると200万円。
うわぁお。確かにただ登録するだけにしては高すぎる。
「金さえ払えば誰でも手にすることが出来る冒険者カードで、まぁ貴族の次男だ三男だのがよく取るみたいだな」
「身分証的な意味合いで?」
「いや、箔をつけるためさ。んで腕のいい冒険者とパーティーを組ませ、ちぃっとばかり強いモンスターを倒させる。すると名声が一応手に入るからな」
金で買う名声ってわけか。
まぁ登録料で2万Lってのは高いと思うけど、お金として考えれば別にどうってことない金額だ。別に払ってもいいんだけど──。
「次は正攻法だ。試験を受けて、それをパスすりゃいい」
「試験を受けるのにもお金がいるんだが、まぁそっちは100Lだ。ちょっと頑張れば溜めれる金額だろ」
「そうですね」
とにっこり笑っておく。
100Lならその辺の薬草を拾い集めて雑貨屋に売れば、どうにでもなる金額だ。
「最後は紹介状だ。商人専用のギルド、商人ギルドから認められた『信用できる商人』や、Aランク以上の冒険者からの紹介状を持って行っても登録できる」
「信用できる……でもその商人が誰だか調べる方法がないですよね」
「まぁ商人ギルドに所属でもしてねーと教えて貰えないが……なぁ?」
「あぁ」
ん?
冒険者二人がにんまり笑って頷きあってるぞ。なんだろう、いったい。
「ではわたくしめが冒険者ギルドへの紹介状を書きましょうか?」
行商人のオセロさんが、手をにぎにぎもみもみしながら荷馬車から顔を覗かせた。
港町へと到着した。
さすがに海沿いの町。吹き渡る風にどことなく潮の香がするし、カモメの声も聞こえる。それ以上の喧騒も。
まずは宿を取り、そこの一室でオセロさんが僕たちの紹介状を書いてくれた。
「紹介状に限らずですが、大事な書類にはこうして家紋でもある蝋印を押す必要がありまして」
「へぇ。蝋印なんて初めてみました」
「そうなのか? ボクはよく目にしているけどな☆」
「坊ちゃまはバカですね。一般人は蝋印なんて、一生に一度でも見ることなく人生を終えるものでございます」
「はっはっは。そうだったのかー☆ミ」
アンリさんはブレッドの侍女だと聞いた。
侍女が主人をバカ呼ばわりって、凄いことだと思うんだけど……まぁそれだけ信頼関係あるってことだろう。
それだけじゃないのかもしれないけど。
オセロさんからの紹介状を手に冒険者ギルド──へは、護衛のために雇われている冒険者がしてくれる。
「ここがエイカにある冒険者ギルドだ」
「はぁぁぁ……随分と大きいですねぇ……」
建物は4階建て。ファンタジーな世界で4階建てってのは、凄く大きな部類に入る。
しかもこの建物、コの字型になっていて、内側は試験や訓練に使う中庭になっているんだとか。
「港町だからな。護衛任務なんかはかなり多いし、それ目当てに集まる冒険者も多い」
「それ以外にも近くに迷宮が三つほどあるからな。ここを拠点に活動している冒険者が多いって訳さ」
この近くに迷宮が三つ?
ゲームでは港町近くに迷宮が確かにあったけど、一つだったな。
適正レベルが15ぐらいの、難易度の低いダンジョンだ。
他にも二つあるってことは、ゲームでは未実装だった場所か。
興味はあるけど、今は西の大陸で二人の故郷に向かうのが先だ。迷宮はまた今度にしよう。
案内された冒険者ギルドの中はこれまた賑やかなもので。
最近ちょっと人酔いも落ち着いて、うまく話しも出来るようになってきた僕は一歩後ずさってしまうほど。
学校の教室を横に三つぐらい繋げたような建物の中に、みっちり人が詰まっている。
「登録は三階だ。そっちがここほど多くもないから、あちこち見て回るより先に用事済ませてしまえ」
「そ、そうさせてもらいます」
案内してくれた冒険者の皆さんは、仕事依頼の張り紙を見るらしい。
張り出された仕事内容で、近隣の情勢とかも分かるのだとか。まぁ情報収集の一環みたいなものだろう。
彼らはまだ暫くオセロさんの護衛任務がある。半年契約という、日数で雇われているのだと話す。
お互いの信頼関係がなければできない仕事なんだろうな。
アーシアとルーシアを連れて三階へと上がると、さっきの人が言うようにここは人でごった返すことはなかった。
それでも20人ぐらいいるけどさ。
カウンターに紹介状を提出すると、奥から鑑定人という人が出てきて蝋印を鑑定。
これで本物かどうか確認するのだという。
「本物に間違いございません。ではギルドへの登録を行わせていただきます。登録なさるのはお三方のようですが、よろしいですか?」
「お願いします」
後ろのアーシアとルーシアを見て、受付の女の人が確認する。
そういえば奴隷の首輪、つけたままだったな。
登録はあっさりとしたもので、簡単なギルドの説明だけで終わってしまった。
冒険者のランクは、検定依頼というのがあって、それをクリアすれば上がっていくという。
またギルドが紹介する仕事はある程度、やらなきゃいけない。
ポイント制になっていて、依頼達成にかかる日数なんかで与えられるポイントが設定されているんだけども、年間通じて最低10ポイント必要なんだとか。
「最低ポイントに届かなかった場合、ギルドを強制退会させられますのでご注意ください」
「依頼を少しでもやっていればいいってことですね」
「その通りです」
なら問題はない。
登録を終え一階へと降りて見知った顔の冒険者を探す。
だが見つからない。
というか人が多すぎて探せない!
「あそこにいますの」
アーシアが指さす方角に、見覚えのある冒険者が見えた。
トトトっとルーシアが駆けて行って彼の服の袖を掴むと、二人で話をした後戻って来た。
「あの人たちまだしばらくここにいるそうよ。三人で港町の見物でもしてろって。終わったら宿に直接帰ればいいんですって」
「そっか。じゃあせっかくだし、港町を見て回ろうか」
そう伝えると、どことなく二人の尻尾が嬉しそうに揺れたように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます