第38話

「いやぁ、助かりましたです」


 オセロさんはそう言って手をにぎにぎぎゅっぎゅっとしてくる。


「今回の素材の一部を港町で捌きます。そのお金でピタリー村へと支払う物を購入し、再びここへ戻ってこなければなりませんですから」


 それも一往復ではなく、何往復かすることになるだろうと。

 まぁ荷車に牛や豚を乗せた場合、せいぜい数頭ずつしか運べないだろうしなぁ。

 港町だけでなく、南下した大き目の農村で作物の苗も購入しなければならないんだとか。


「わたくし、ブレッド様を西の大陸までお連れする約束だったのですが、本業の仕事もしなければなりませんし」

「君が一緒なら心強い☆ どうだろう、一緒に行ってはくれないか?」


 心強いって、レベルで見るとブレッドのほうが上なんだけどなぁ。


「ところで君たちの目的地はどこだい?」


 ブレッドにそう言われ、はてと首を捻る。

 目的地は特にない。

 ただ二人が追われているから少しでも遠くに逃げたかったんだけども。


「そういえば君たちを追っていた奴隷商人……」


 今はどこかで転がっていることだろう。もしかして獣の食糧に……。

 うっ。想像するのはやめよう。


「タックが片付けてくれたから、もう追われることもないわね」

「そうですね。ではもう逃げる心配もしなくて済むですの」

「逃げていたのかい、君たちは?」


 ブレッドの問いに、二人は顔を見合わせそれからポツリと言った。


「奴隷狩りに……」


 ──と。

 それだけでブレッドは理解したようだ。

 うんうんと頷き、それから握りこぶしを僕に向けこう言った。


「守ってやるのだぞ☆」

「言われなくても守るさ」


 それから僕らは三人で話し合った。

 追われることはなくなった。じゃあどうするか。


「タックさんはどうしたいですの?」

「タックに助けて貰ったんだもの。あんたが行きたいところあるなら、アタシたちは付き合うわよ」

「うぅん。行きたいところかぁ」


 と言われても、特にここという所は無い。

 むしろ──


「せっかくだし、いろんな所に行ってみたい」


 西の大陸は未実装エリアも多い。

 ゲームとして考えても西は冒険してみたいし、異世界として考えればもうどこでだって冒険したいと思う。


「そうだ。二人の故郷は? 家族とか、知り合いに会いたいとは思わないのかい?」


 そう尋ねると、二人は顔を伏せてしまった。

 も、もしかして奴らに家族が殺されたとか?


「ご、ごめん。聞いちゃマズかったよね」

「ち、違うのタック。べ、別にアタシたち、あの奴隷商人に家族を殺されたりとかはしてないわよ」

「ご心配をおかけしてごめんなさいの。私たち、もともと両親は早くに病で亡くしてるですの」

「え……そ、それはそれで、ごめん……」

「あ、いえその……あ、あのですね、村が襲われた時、半分は殺されて残りは全員捕まったです」


 アーシアとルーシアの村は、60人程度が住む小さな村。

 捕まった人たちは性別や年齢、容姿によって分けられ、二人だけが東の大陸に運ばれたのだとか。

 だから故郷の村に行っても、誰も残っていない──と。


「そう……か」

「あ、でもっ。アタシ、一度帰りたい」

「ルーシア、どうしてですの?」

「帰って、お父さんやお母さんの思い出の品……残っていたら持っていきたいから」

「あ……」


 アーシアも思い出したかのように「そうね」と答える。

 よし。なら決まった。


「僕たちも西の大陸へ渡ろう。目指すはアーシアとルーシアの生まれ故郷だ!」


 ひとつずつ目的地を決め、そこに到着すれば次の目的地を三人で話し合って決める。

 そんな旅も悪くない。


「よし。では共に行こうぞ☆ミ」


 この白タイツがいなければ、もっと晴れやかな気持ちで出発できたのかなぁ。





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