第36話
ドラゴンの素材回収へと向かうのにも、やっぱり護衛が必要なので僕らはしばらく村に泊まることになった。
宿賃はタダ。
頑なに素材拒否していた理由を察したジャングさんが、ならせめてこれだけでもとくれたのが――
「おでこの鱗?」
「まぁ、綺麗です」
「ほんと、光の具合で色が変わるのね」
僕の親指ほどの鱗が十枚。
見た目は淡い緑色をしているのだけど、太陽にかざすと赤かったりオレンジだったりと色が変わる。
手で包んで影を作れば深い青に。
「虹鱗と言って、ドラゴンの素材の中で最も高く取引される鱗だ。それ一枚で家が建つほどだから、持って行って欲しい」
「家が一軒!? いや、そんな高価な物受け取れないよっ」
「タックさま、どうか持って行ってください。大きな物は鞄に入らないでしょうが、それでしたら例え小さなポーチでも入ります。それに他の素材だって――」
村長が言うには、胴の部分にある大きな鱗、僕の掌より大きなサイズなんだけど、これが一枚1000L。金貨一枚に相当するという。
「うちでお世話になっている行商人さんからの聞きかじりですが、このサイズのドラゴンは一体で30万Lにはなるそうです」
30万L……6桁金額か。
最初は4桁のお金を貯めるのにも苦労したなぁ。
サービス開始直後はどのプレイヤーもお金を持っていなかったし、課金アイテムの転売をしようとしてもゲーム内通貨の流通が少なくて赤字になるから。最初は地道に稼いだもんだ。
「でもそのお金で、ドラゴンの損害が賄えますか?」
「十分です。牛や豚をそれぞれ二十頭は買えます。野菜の苗も、自分たちが食べるために必要な食糧を買いこむこともできます。できる上に、それでもなお余ります。だというのに虹鱗まで私どもが頂くなんて、罰が当たりますよ」
「そうですか。僕はいまいちお金の感覚が分からなくて。でもこの村の人が飢えずにすむなら、これは頂きましょう。アーシアもルーシアも気に入ったようですし」
「「へ?」」
突然名前を呼ばれ驚いたのか、鱗と僕らを交互に見て恥ずかしそうにもじもじした。
それだけ鱗の色が移り変わるのを楽しそうに見ていたのだろう。
そうして五日。
ようやくドラゴンの解体が終わり、それから山賊の根城にも向かった。
もちろん中はもぬけの殻。
お世辞にも綺麗とは言えない、それでも頑丈な建物は、昔この辺りにあった国境を見張る砦だったのだという。
「そういえば……見覚えがある……」
煙突のような見張り塔が真ん中にあって、それを囲う壁と、兵士が寝泊まりする石造りの建物。
特に雑貨屋とか何もなかったけれど、クエストNPCが結構いたし、何より安全地帯だ。レベル30前後の拠点の一つになっていたんだっけか。
懐かしい……。
「タック、どうしたの?」
「タックさん、何かありましたか?」
アーシアとルーシアが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫。さ、悪党のお宝も全部頂こう! というか、い、いいんだよね? 貰っちゃっても?」
ちょっと不安になって、一緒に来ていた村人にそう尋ねる。
「持ち主が誰なのかわかりませんからね。山賊を退治したことはお役人様に後日報告します。あまりにも高価な、貴族様がお使いになるような品があれば、それは引き渡すほうがいいでしょうが」
「お金に名前が書いてあれば別ですけどね」
そう答えが返ってくると、確かにその通りだと笑みがこぼれた。
見つかったのは銅貨から金貨まで、かなりの数の硬貨。
布や宝石、鉄インゴット、それに武具もちらほら。
「装備品は高価な物ですかね?」
「いやぁ、さすがにあっしらにもそればっかりは分かりません。なんせ使うことがありませんから。なぁジャング、お前はどうだ?」
「俺もよく分かりません。価値よりも、使える装備かそうじゃないかの区別ぐらいしか」
実用的な装備は分かるけれど、その金額まではわからない、ってことか。
そうだ。一度アイテムボックスに入れよう。そうすれば装備の効果や装備レベルが分かるだろうし。
村の人たちが硬貨の回収をしている間に、こっそりアイテムボックスへと装備を入れていく。
入れ方はいたって簡単。
インターフェース上でアイテムボックス画面を開き、そのウィンドウ部分に入れたいものを押し当てるだけ。
大きさはあまり関係ない。ウィンドウに触れれさえすればすっと消えて、一覧にアイコンとなって表示される。
突っ込んだのは剣だ。
装備タブの一番奥のページに、新着アイテムが表示されるようにしてある。
その一番最後のページにある、一番最後に並んだ剣のアイコンをワンクリック。
【鉄の剣】
ごく平凡な鉄の剣。
攻撃力+75
装備レベル15
詳細窓にはそう書かれていた。
片手剣の攻撃力は、装備レベル×5が平均的な数値になる。
ってことは、本当に平凡な剣だ。
他にも突っ込んでみたが、どれも平凡装備。ステータス補正とか一切ない。
「ジャングさん。この武器どう思います? 良さそうですか、それとも悪そうですか?」
使い勝手――という意味を聞いたが、ジャングさんは「普通だな。悪くはない」という答えだ。
そして僕がプレゼントした斧を手にし、にこやかにこう答えてくれた。
「これは本当に素晴らしい武器です。俺は今までこんな凄い物は見たことがない。まるでおとぎ話に出てくるような、英雄たちが手にする武器のようだ」
そう言って何度目になるか分からない、本当に貰ってもいいのか? と尋ねてくる。
僕にとっては装備のできないものなんて、ゴミ同然だ。
しかも性能は詠唱とアイテム強奪っていう、微妙なものだし。
でもこんなゴミ性能でも装備ランクはレアだ。レアなゴミとも言える。
レアは同じ装備レベルの店売りに比べても、武器なら攻撃力が高いし、防具なら防御力が高い。
ジャングさんは武器の数値的なものは見えないから、きっと単純に装備したときの切れ味とかそんなのを見て、凄い凄いと言ってくれているんだろうな。
けど性能はいいはずなのに、アバターの腰ミノは丁寧に辞退されてしまった。まぁ仕方がない。
そうなると、この世界の装備って……基本性能である攻撃力とか防御力だけで、ステータス補正なんかが付いてないのが当たり前?
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