第35話

 敵は正直、弱かった。

 遠くからインターフェースで、ギリギリ調べられるだけの山賊や傭兵のステータスを見ようとしたが見れず。

 というのも彼らは敵だったから、ステータスの確認はできなかった。

 だけどレベルは分かった。


 傭兵はレベル18から20。山賊は頭と呼ばれた奴が22で、他は15以下だ。三人組は15前後。

 鎧も鉄ではなく革。

 僕がアーシアたちに作ってあげたものより質は悪いだろう。


 そんな奴らが僕の魔法コンボに耐えれるはずもなく。

 最初のレベル1ライトニングでのダメージもあって、レベル10ライトニングで動かなくなってしまった。

 辛うじてHPバーに赤い線ほどが残っているのもいたけれど、半分以上は即死。


 こうなるとアーシアとルーシアがいっきに止めを刺し、僕もレベル1の範囲魔法で全てを終わらせた。


 ただ――


「凄いな……生きてるんだ」

「脂肪って魔法に耐えるのでしょうかね?」

「電気の通りが悪いだけじゃないの?」

「うぅ……うっ……」


 奴隷商人だけは生きていた。もちろん瀕死だけど。


「村長さん。大丈夫ですか!?」

「わ、私は大丈夫です。しかし奴らの仲間はまだおります。この騒ぎを聞きつけ、村のものを――娘を……」


 膝をがくりと落とした村長さん。だけどその足はすぐに立ち上がることになる。


「お父さん!」

「ア、アリーン!?」


 暗がりからかけてきた村長の娘さんと、それに続く四人の女性たち。

 彼女らがこの村の若い女性たちなんだろうな。確かに婚活ツアーが必要な少なさだ。

 その女性らの後ろからジャングさんがやって来た。


「終わってしまったのか? 俺の出番は?」

「ごめん」

「すみません」

「彼女を助けたんでしょ? いいじゃない」


 頭をかいて、やれやれといった顔のジャングさん。

 その彼に、村長さんとハグしていたアリーンさんが戻って来る。

 こちらはお父さんとは違う、とても熱い抱擁だ。


「ありがとうジャング。きっと助けてくれると信じていたわ」

「お、お嬢様。全てはタックさまのおかげです。お礼ならあの方に」

「分かってるわ。でもあなただって私たちを助けてくれたのだもの。お礼を言っても罰は当たらないわよ」


 もうそのまま結婚しちゃいなよ。

 そんな風に思えてしまう微笑ましい光景。

 まぁその微笑ましい光景の近くでご遺体がごろごろしているのだけれども。


「アーシア、ルーシア。これどうする?」


 虫の息の奴隷商人を指さし二人に尋ねる。

 二人にとって故郷を奪った男だ。彼女らの思う通りにさせてやりたい。


 そして二人は無言で頷き、それぞれの武器を構えた。






 幸いとでもいうのかな。

 村人に怪我人は何人もいたけれど、命に別状は無い。

 回復リングでひとりずつヒールをしていき、全員の怪我を治すと今度は力仕事が待っていた。


 山賊と奴隷商人一行の遺体の処分だ。


 といっても遺体を荷車に乗せ、村から少し行った崖――こちらは見下ろす崖だ――に投げ捨てるだけ。

 そのうち獣が食べて、骨は土に還るだろうって村の人たちが言う。


 捨てるだけとはいえ、時間が時間だっただけに、全部終わったころには東の空がしらみはじめる時刻。


「さぁさぁ、あとの片付けは昼からにして、ひとまずみな休もう」


 村長さんのその一言で、みんなはそれぞれの家へと帰ってく。

 僕らは念のため交代で休むことにした。

 まずは僕が寝ることになった。

 レディーファーストだと言ったのだけれど、


「アタシとアーシア、それにジャングさんの三人でも、タックひとりに勝てないもの」

「そうですタックさん。村の人たちを安心させるためにも、私たち三人とタックさんで交代するほうがいいと思うです」

「恥ずかしいことだが、二人の言う通りですタックさま」


 ということで僕が寝ることに。

 その間にジャングさんがドラゴンのことを村長に知らせ、素材の回収の話もしておくからと。


 まぁ、そういうことなら仕方ないか。


 うっすらと空が明るくなり始めた頃、僕はベッドに潜り込んだ。

 そして今夜のことを思い出す。


 あの奴隷商人、アーシアたちをずいぶん高く売り飛ばそうとしていたな。

 確かに二人はとても綺麗だし、これまで見てきた人族にオッドアイがいないことから、珍しい瞳の持ち主なのだと思う。

 だけど本当に 山賊たちを雇ってもまだ儲けられるほどの金額なのだろうか。

 そんなお金を支払えるって……


「僕みたいなプレイヤー……だったりするのかな……」


 それとも貴族とか、王族だったりするのかな。


 まぁなんにしても、二人を追ってくる奴隷商人はもういない。

 これで安心して旅ができる……は……ず。


 もう寝よう。今日はいっぱいあって疲れたな。

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