第33話
「ほ、本当に村で頂いていいのですか? あれだけの素材があれば、なんだって買えますよ!? 牛だって、豚だって、野菜の苗だって!!」
ジャングさんの例えが、全部あいつにダメにされた物ってのが笑える。
あの村が大好きだって気持ちが伝わってくるな。
アーシアもルーシアも勿体ないと言うけれど、あの血まみれ肉まみれの素材をアイテムボックスに入れるのは嫌だ。
それに差し当たって素材を必要としていないのもある。公式ショップで買えるのだから、本当にいらないものでしかないんだ。
レア素材ばかりはさすがにショップでは買えないけれど、それはそれで僕が持っているという。
「貰っても運ぶのが大変だし。それにピタリー村はドラゴンによる被害が大きかったんでしょう?」
ジャングさんは少し考え、それから頷き悲痛な顔になる。
村をざっと見た限り、牧場には牛も豚も、それに鶏すら姿が見えない。
村長さんところは牝牛と仔牛が一頭ずつのようだし、他の家でも似たようなものだろう。
牛を売ってお金にし、時には捌いて自分たちの胃袋を満たす。そんな牛が数頭しかいなかったら、売ることも食べることもできないじゃないか。
ゲームなら餌をやれば勝手に繁殖するけど、果たしてここでそれが可能なのか。
「ち、ちなみにですよ? 牛って出荷できるようになるまで、その、何日かかりますか?」
そんな僕の質問に三人は目を丸くする。
「タック。あんた牛を育てたことないの?」
「タックさん。牛って成長するのに一年以上かかりますよ?」
「そ、そうだな……。食肉として出荷するなら、少なくとも二年以上かかる」
「で、ですよねー」
はは、こりゃあリアル仕様だ。
となると、少なくとも二年先まで出荷も食べることもできないのか。
「ならなおのこと。あのドラゴンは村で使ってください。素材を売れば家畜や苗を買うことができるのでしょう?」
「そ、そうだが……」
ドラゴンの死体はさっきの場所に置いてきた。
奴の遺体の上に土がかぶさるように、後ろの崖をコメットで吹っ飛ばしてある。
だけどあまり何日も置けば腐ってしまうし、早く村に戻って人手と荷車を用意しなければならない。
それで今慌てて村に引き返しているのだけど……。
こんなことなら、テレポートのスキルを3ぐらい取っておけばよかったなぁ。
1しかないんじゃ、自分ひとりしかテレポートできないし。
そんな訳で僕らは夜通し歩いている。
僕以外は獣人なので、夜道を歩くのも苦ではない。僕だけが苦労してて、そこはアーシアとルーシアが交互に手を繋いでくれるので足場の悪い山道でも歩けてはいる。
山道を下りながら、前方にぽつぽつと明かりが見えてきて、そこが村なのだというのがすぐ分かった。
「おかしい……こんな時間に灯りが点いているなんて」
ジャングさんが不安げにそう言う。
今が何時なのか分からないが、暗くなってもうずいぶん経ってはいる。
「いつもなら、もうみな寝静まるころだ。それがどの家も灯りがついているなんて……何かあったのか?」
「ジャングさん、急ぎますか?」
急ぎたいのならいいものがある。
課金ガチャ『スピードアップリング』!
60秒だけ移動速度1.5倍。
そこに同じ効果のプチカップケーキを食べて走れば、2倍以上の速度が出る。
まずはケーキをみんなで食べ、それからジャングさんにスピードアップのスキルをかける。
彼はすぐに走り出し、ルーシア、アーシア、僕の順でスキルを使った。
先に村の近くまで到着したジャングさんが、僕らにしゃがむよう指示をする。
「山賊どもが村を占拠していやがる……くそっ、アリーンは無事なのかっ」
「山賊?」
唇を噛みしめ鋭い視線を村へと向けるジャングさん。
夜目のない僕にも見える。
松明を持ち立つ男たちの姿が。彼らは村人とは違う。
革鎧を着て、剣や斧を腰にぶら下げた村人なんてひとりも見ていない。
「敵は何人だろう?」
「調べてこよう。ルーシアを借ります。弓使いは目がいい」
そういわれてルーシアは頷き、僕とアーシアがこの場で残ることになった。
二人がいなくなってから暫くして、アーシアがあることに気づく。
「タックさん。私たちを追っていた奴隷商人がいるです」
「え? ほ、本当に?」
アーシアは松明を手に持つ男たち――その中心を指さす。
そこには男五人に囲まれるようにして、椅子に座る太った男の姿が見えた。
周りの男たちは奴隷商人に雇われた傭兵だと彼女は言う。
こんな所で奴隷商人に出会うなんて……追ってきたのか?
でもどうしてここが。
「敵の数は五十ほどだ。山賊ども全員で攻めてきたようだな」
そう言ってジャングさんとルーシアが戻って来る。
そしてルーシアはどこか苛立っているようで。
「町の宿でタックがやっつけてくれたあの三人組がいたわっ」
「町でって、氷漬けにした?」
頷くルーシア。
もしかしてあの三人組を仲間にして、それで?
にしても、ピンポイントで行方を当てるなんて。
「目的は私たちです。村の方に迷惑はおかけしたくありません……」
「そうね。アタシたちを追ってきたんだもの。アタシたちが出ていけば――」
そんなことを言い出す二人に、僕が慌てて待ったをかける。
「待って待ってっ。相手は五十人ぐらいなんだろ? 倒せばいいじゃないかっ」
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