第32話

『ブルオオォォォォォッ』


 耳をつんざくような獣の咆哮。

 それが洞窟の奥から聞こえた。


 僕らの気配を察知して出てきたのか、それとも腹を空かせて獲物を探すために出てきたのか。

 分からないが、飛んで火にいる夏のドラゴンだ。


「"ブレッシング""バトルソング"」


 課金ガチャ産指輪で、司祭プリーストスキルを唱える。

 前者はステータスALL+1。後者は物理ダメージ+10%、回避と肉体を+1する。

 ガチャ指輪は全てレベル1しか使えないので微妙だけど、今は+1でも底上げする必要があった。


 対する空腹のウィングバットドラゴンは僕らより格上の存在だ。

 0より+1でもステータスを高くしておくことで、生存率がぐんと変わる。


 ブレッシングは対象ひとりに有効なので四人全員にかけ、だけどバトルソングはパーティースキルだ。

 シャングさんには効かない。

 その代わり彼にはバーサクリングを渡しておいた。


 十秒毎にMPを1消費する代わりに、ダメージ1.3倍。攻撃速度10%UP。

 ジャングさんが持つバトルハイの上位版みたいなものだが、こちらはアクティブスキルなうえ、重ね掛けができる。


「はぁぁぁっ"バーサク"!」


 お、さっそく使うみたいだ。でもなんで気合入れてるんだろう?

 

 FA《ファーストアタック》はジャングさんに任せる。

 このメンバーで一番防御力が高いのは彼だ。そして今は盾も装備して貰っている。


 もしヘイト概念があったら怖い。

 僕はジャングさんがしっかりドラゴンのヘイトを集めるまで少し待った。

 だいたい一分だろうか。


 彼が何発か入れるのを確認してから、魔法を唱える。

 まずはこれ――


「F9(スパイダーウェーブ)」


 目視した中心にいたドラゴンの胴に、白い糸が絡むのを確認。

 蜘蛛の糸が粘着性があり、敵対象の動きを阻害する。

 スキルレベルは5しかないので、効果時間は十五秒と短い。

 だけどこの十五秒の間に、アーシアが覚えたてのバッシュを三連続で打ち、同じようにジャングさんもバッシュを三連続。そしてルーシアはダブルアローと通常攻撃の連続コンボを決めた。

 僕自身、この十五秒でファイア、アイス、サンダー、コメットと、それぞれレベル10の最大火力をぶつける。


 敵は一体。範囲スキルを使う必要がない。


 同じ一つのスキルを連続で使おうとすれば、再使用までの待ち時間であるクールタイムが発生する。

 ただぼぉっとそのクールタイムが終わるのを待つなんて、地雷か、もしくは初心者のすることだ。

 常に魔法を切らさないよう、違うスキルを間髪入れず唱えまくる。


 大魔法は威力が大きいが、詠唱時間もクールタイムも長い。

 その一撃で決着がつくならそれでもいい。

 だけどHPの高いモンスター相手なら、一撃の威力より手数で勝負というのもありなんだ。


 そう思っていたのだけれど……僕の計算はどこで間違ったのだろう。


 スパイダー・ウェーブの効果が切れ、ドラゴンが動けるようになり反撃開始。

 ジャングさんは奴の攻撃を盾で受け流し、すぐさまバッシュで応戦する。

 僕のスパイダー・ウェーブのクールタイムが終わると、直ぐに二度目を発動。


 その時僕は見た。

 ドラゴンの頭上にあるHPバーが、真っ赤になっていたのを。


 赤――それは瀕死状態を現す。


 ルーシアのダブル・アローの一撃で、HPバーが目に見えて減っているのが分かる。

 アーシアのバッシュは微妙な減少だけど、でも減ってるのが一撃で分かる。

 ジャングさんのバッシュはルーシアの攻撃より、確実に減っている。


 じゃあ……


「F3(ファイアレベル10)」


 大きな火球が一つだけ飛んでいき、それがドラゴンへと直撃する。

 HPバー……たぶん2%分ぐらい減った。


 あれ?

 めちゃくちゃ弱い?


「F4(アイスレベル10)――F5(コメットレベル10)」

 

『グルオォォォォォォ……ン』


 礫が十個降り注いだところで、ドラゴンはドウっと音を立てて倒れた。


 戦闘開始からまだ二分も経ってないんじゃないかなぁ。

 おっかしいなぁ。


 こんなに弱かった?

 それとも僕らが強かった?


「や、やったぞ! 倒したんだ。ドラゴンを俺たちの手で!!」

「思っていたより弱かったわね」

「だけどタックさんが用意してくださった装備が無ければ、分かりませんでしたよ?」

「そうね。タックのおかげだわ」

「あぁ。タックさまのおかげだ。タックさま、このドラゴンの素材をお持ちください。これは商人に高く売れる素材ですから」


 そう言ってジャングは、手にした剣でドラゴンの鱗をはいだ。

 あぁ、ドラゴンの血って、赤いんだなぁー。ははは。


 彼が手に持つ鱗には、肉片もぐちゃっとついてるし、どろどろ血も滴っている。

 そしてにっこり微笑んだジャング。


 怖い。

 嫌だ。

 あんなのアイテムボックスの中に入れたくないよ!



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