第31話
「F5」
よく使うスキルは指で触れやすいショートカットキーに設定するものだ。
僕の場合、F4とF5、それとF6に触れやすく、頻度の高いライトニング、フレイムバースト、スパイダーウェーブをそれぞれセットさせてある。
アーシア、ルーシアとパーティーを組んだので、もう手加減をする必要はない。
チャットウィンドウのシステムメッセージで確認してみたけれど、僕が一切手を出さず彼女らだけでモンスターを倒しても、こちらに経験値は来ていた。
そんなわけで、ジャングさん曰く「この先はモンスターが多くて危険だ」というエリアにわざわざ入り込んで、範囲魔法でフィーバー状態だ。
なお、ジャングさんはパーティーには入っていない。
彼に「タックさまは俺を求めているのか」なんて頬を染められて言われたりしたら困る。
そんな誰得展開は期待していないから!
という冗談はさておき、実はパーティー申請ができなかったというのが正解。
何故かはわからないけれど、できないものはできないのだから仕方がない。
代わりに経験値アップチケットを渡して破いてもらった。
半日ほど大暴れしてから、ついにドラゴンの巣へと向かう。
山の奥、木々が生い茂るその奥に崖があった。
見下ろす崖じゃなく、見上げるほうの崖。とはいっても高さ100メートルほどしかなく、だけど正面の壁にはぽっかりと穴が開いていて。
「こっちだ。身を隠せ」
ジャングさんに言われ僕らはすぐさま茂みへ隠れる。
あれが巣穴のようだ。
穴の大きさは15メートル×15メートルほど。
あの穴に住むドラゴン……うん、小型だな。
やがてギィギィと声がして現れたのは、蝙蝠のように翼の途中に鉤爪のある翼竜だった。
鱗に覆われた胴は、確かにドラゴンっぽい。だけど最初の予想通り、体は小さかった。
長い尾っぽを除けば、頭の先からお尻まで三メートル以上、四メートル未満ぐらいから。
こんなの、通常のストーリークエストに出てくる、ソロでも倒せる中ボス程度でしかない。
インターフェースで確認すると【空腹のウィングバットドラゴン:LV32】とあった。
空腹とついているから、一応ネームドモンスターなんだろうな。
「ドラゴンのレベルは32だった。アーシアとルーシアのレベルが23で、僕が27。ジャングさんも同じく27か……」
「レ、レベ……ん?」
「ジャングさん。気になさらないでください」
「そう。タックの言っていることは気にしないで。もう少しレベルを上げたほうがいいかしら?」
そうだなぁ。夕方、十分明るいうちまでもう少し頑張ろう。
アーシアたちのレベルが25になれば装備も一新できる。
ドラゴンの巣穴から離れて、チケット消費&課金ブーストでステータス底上げ&ポーションがぶ飲み!
「ポ、ポーションなんてこんな高価な物を俺に!?」
「その代わり技をじゃんじゃん使ってくださいねジャングさん」
ジャングさんのスキル。バトルハイは一定時間、攻撃速度を上げる効果がある。バッシュは斬りつけ攻撃で、ウォリアーやソードマンの基本スキルみたいなものだ。
アーシアはこれが使えない。
「ジャングさん。私にもその技を教えてください!」
「俺も人に教わっただけで、うまく扱えているか自信はない。だが……分かった。教えよう」
ここで子弟関係が芽生えるのかな?
僕としてはありがたいことだ。僕はレベルが上がればポイントが貰え、そのポイントを振り分けるだけでスキルが使える。
だけどこの世界の人たちはそうもいかない。
アーシアとルーシアは教わって覚えるしかないだろうし、僕にはそれができない。
この世界の人たちに教わるしかないんだ。
だけど二人の会話を聞いていると、
「ぐぬぬぬっと気合を手に溜めるのだ」
「はい! んむむむむぅ」
「その気合を武器に流し、放つ!」
「むむむぅ……はぁ!」
そんなのでいいのかと不安になった。
「できました!」
「素晴らしいぞ、アーシア」
「本当にそれでできるの!?」
異世界……もしかしてチョロい?
「じゃあ装備を着替えてね。ジャングさんもこれをどうぞ」
おやつの時間が終わって少ししたぐらいな頃。
アーシアとルーシアのレベルが25になったので、装備の製造を行った。武器も新しい物を用意。
僕とジャングさんはレベル28。
製造装備はレベル5毎の更新しかできないので、僕の装備はそのまま。ジャングさんにも25装備を進呈した。
武器も手持ちで一番攻撃力の高いレベル28の斧だ。
ただ補正がネタで、詠唱+10、一定確率でアイテムを盗む。なんてのがついてるんだよね……。
物理攻撃職に詠唱とか必要ないし、強奪系効果は本当に確率が低いので、完全ネタ装備だ。
だからこそ、イベントの景品にしようと思って買ったんだけどさ。
「い、いいのか? こんな高価な装備……」
「僕それ、装備できないんで。それに荷物になって仕方ないんだ。ジャングさん、そのまま貰ってくれると助かるんだけど」
これはわりとマジ話。
異世界でユーザーイベントなんてやってられない。
アイテムボックスには700種類以上の物が入っていて、限界が近いんだ。
どこかで減らさないと、新しく物を買いこんだりするときに不安だったりする。
アイテムボックスを圧迫している主な原因は、大量にあるクエストアイテムだったりするんだけど。
これ、なんとか使い道ないかなぁ。
「さて、じゃあ全員準備オッケーだね」
「はいっ」
「もちろんよ」
「こ、この格好で戦うのか?」
恥ずかしそうにそう尋ねるジャングさんは、少しでもステータス効果を上げるために製造装備の上からアバターも着て貰った。
筋力と肉体に補正が入る、ターザンコスチュームだ。
「しかしこの腰ミノはどうなっているんだろうな。さっきタックさまより頂いた鎧を着ていたはずなのに、腰ミノを着けるとそれが消えた……」
「うん。そういう魔法なんだ」
「魔法?」
「そう。古代の魔法」
「なるほど……凄いな、古代の魔法は」
魔法って言葉は便利だね。異世界人ですらそれで納得してくれるんだもんな。
アーシアとルーシアにはポーションを渡し、彼女らに買ってあげたポーチに入れさせてある。
ジャングさんは腰ミノターザンなのでポケットはなく、戦場となる奴の巣穴近くに目印となる木を決めその根元にたくさん置いた。
僕も回復魔法の『ヒール』を封じたアクセサリーを装備&ショートカットに登録。
「じゃあドラゴン退治に行こう!」
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