第30話
「ジャングさんっ。村長の娘さんとは、どういうご関係なんですか!?」
「え……」
「ジャングさんっ。付き合ってるの? ないの?」
「え……」
食後、寝る支度をしているとこうだ。
小屋の中のベッドはボロく、山賊が使ったベッドなんて嫌だというアーシアとルーシアはテントで寝るという。
もちろんテントは小屋の中で広げて。
僕とジャングさんは中にあったベッドを使うけれど、その中でも比較的綺麗な物を使うことにした。
そしてこうだ。
ジャングさん、顔真っ赤にして困ってるじゃないか。
「つ、付き合ってなどいないっ。お、お嬢様は村長さんの娘で――」
「質問を変えるわ。好きなの? 興味ないの?」
というルーシアの質問には、ジャングさんは真顔で「好きだ」と答える。
サラっと本音言ってるじゃん!
やっぱリア充じゃん!
「だが……俺たちは異種族だ。いろいろ難しいんだよ」
「でも村長さんは良さそうな方です。認めてくださるんじゃないですか?」
「そ、そりゃあ……。だけどアリーンに好意を寄せている男は他にもいるんだ」
アリーン。それが村長さんの娘さんの名前なんだろう。
聞くとあの村は女性が少なく、自然と未婚女性も数人しかいない。
逆に未婚男性はその五倍以上で、アリーンさんがジャングさんだろうがそうじゃなかろうが、とにかく誰かと結婚してしまうと、その未婚男性らが嫁探しに村を出ていくかもしれないというのだ。
「せ、切実な問題なんですね……」
「ああ。だからアリーンは結婚できないんだ」
日本でもド田舎なんかは、女性が少なく、婚活ツアーなんてものがあるらしい。
かくいう僕が住んでいたところも、駅から十五分も歩けば田んぼと畑しかなく、さらに三十分ぐらい歩くと限界集落かよって思うような景色が広がる。
まぁそういう所を選んで引っ越ししたのだけど。
なんとか若い夫婦に移住してもらおうと、駅の目の前に綺麗なマンションを建てたんだけど、その駅だって一日五本しか電車は通っていなかった。
まぁ他の地区からの利用者もいて、廃線になる心配もなさそうだし、マンションも全室埋まってたし、もう何十年かは生き残れるだろうなぁ。
そんなことを考えていると、アーシアが不思議そうな顔でジャングさんを見る。
「旦那様を必要とする獣人族の女性を連れてきたらいいんじゃないですか?」
「え……」
「そうよ。多産な獣人族は、何も生まれてくるのは男ばかりじゃないもの。お見合いを希望する獣人族がいれば、連れてくればいいだけじゃない」
婚活ツアーさせようとしてる双子の獣人がいるよ!?
「む……そうか。その手もあったか」
そして本気で考えてる大人の獣人までいるよ!?
翌朝。
何故かスッキリした顔のジャングさんがいる。
どうやら本気で故郷の女性陣に婚活ツアーを主催しようと考えているようだ。
まぁ……行動するのはいいことだと思うよ。うん。
何もしなければ変わらないもんね。
ジャングさんとアリーンさんが結ばれるために!
まずは女性たちが安心して移住できるよう、村の安全を確保するためにドラゴン退治だ!
経験値チケットを使って一時間。アーシアとルーシアのレベルが19になった。
昨日は僕のレベルも25になってしまい、18ではパーティーが組めなかったけれど、これでようやくPT機能を確かめられるぞ。
「ちょっと待って。試したいことがあるんだ」
「またなの?」
「今度はなんですか?」
「う、うん。ちょっと待ってね」
インターフェースを開き、まずはアーシアからパーティーに誘ってみる。
ゲームであれば勧誘ボタンを押したあと、相手側に【〇〇からパーティーへ招待されています】って出るんだけど。
彼女らはゲーム仕様じゃないし、どうなるのか。
するとアーシアが僕をじっと見つめ、徐々に頬を赤く染め始めた。
な、何が起こっている?
「タ、タックさんが……わ、私を求めていらっしゃるような、そんな気がするのですが。な、なぜでしょう?」
「なぜだろう?」
「な、なぜだか分かりませんが、タックさんにでしたら私……お受けいたします」
そんなアーシアの言葉と共に、僕の視界に彼女の簡易ステータスが現れた。
「タ、タック? アーシアに何かしたの? 何かしたんだったら、アタシにもしてよ!」
「な、何かって……」
僕はパーティー申請を飛ばしただけなんですけど!
「早くしてったらぁ」
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