第29話
「F2」
エフニ。それだけで上空から炎を纏った小粒の石が飛来してきた。
狙った獲物――ヒンドリルに真っすぐ落下する礫の数は十個。
コメットはスキルレベルに応じた数のごく小さな隕石を召喚する魔法だ。
もちろんこの一撃でヒンドリルは死んでしまったが、獲物はすぐにまた見つかる。
急いでショートカットキーの調節をした。
F2コメット10→5に。
「ごめん。次の獲物も僕にやらせて。確認したいことがあるんだ」
「どうぞ、タックさん」
「いいのよ遠慮しなくって。暴れたかっらた思いっきりガツーンってやんなさいよ」
君たちのレベル上げが目的なんだけどね……。
僕の魔法を見たジャングさんは、空と僕、そして倒れているヒンドリルを見比べ口をパクパクさせていた。
そうこうする間に次の獲物がやってくる。
今度は石のような皮膚を持つ二匹のストーンリザードン。つまりトカゲだ。
さっそく「F2」と短く唱えると、上空からは五つの礫が降ってきた。
じゃあもう一つ試す。
残ったもう一匹に「"コメット"」と、こちらは普通に魔法を唱えた。
降ってくるのは十個の礫。
つまりスキル名詠唱の場合は、僕が習得している最大レベルが発動する?
加減をしたいならショートカットに登録すればいい。MP節約にもなるし、これはいいな。
「ありがとう。魔法の加減の仕方を試してたんだ。じゃあまた二人に任せるよ」
「ま、任せるって……」
「タックさんは戦わないのですか?」
「うん。二人がもう少し強くなるまではね。ジャングさんも言っただろう。もっと強くなければ、ドラゴンは倒せないぞって」
二人は顔を見合わせ、それから自分たちの手を見つめた。
頷き、決意を秘めた目で僕を見て、もう一度頷く。
「分かったわ。アタシ、強くなるっ」
「私もです」
「か、覚悟を決めたところで悪いのだが、そろそろ昼飯にしないか?」
そんなジャングさんの一言で、僕らは休憩をとることにした。
「お、おにぎりというのか、この米粒は!?」
「あ、お米はこのせか――えっと、この大陸にもあるんですね?」
「ん? タック様はよその大陸から来られたのか? 西のアレストンだろうか?」
「い、いやその。も、もっと別の大陸なんです」
「え? そ――」
そこまでルーシアが言うと、隣でアーシアが彼女の口を押えた。
アーシアナイス。
ジャングさんは西のアレストン出身らしく、向こうの大陸では米栽培は比較的盛んらしい。
「俺の故郷では、米を作っていた。その米を年貢として人族の領主に納めていたんだ」
「そ、そうなんですか」
「あぁ。だから食べるのは年に一度だけ。それも豊作だった年だけだった」
懐かしむようにジャングさんが言う。
やはり獣人の扱いは、どこも酷いみたいだな。
お昼はせっかくなのでジャングさんとアーシアには筋力補正の焼肉を。ルーシアには命中補正の明太を出し、あとは敏捷補正のピザをみんなで食べた。
僕はまぁ気にしなくてもいいし、好みの問題でハムサンド。肉体補正だ。
それから敏捷補正サラダと命中補正みそ汁でお腹を満たすと、午後のレベリングを開始。
ここでも二人には経験値増加チケットをビリビリしてもらった。
夕方になるとジャングさんが目を丸くし、
「たった一日で二人の強さが目に見えて変わるなんて……」
そう言って驚く。
そりゃあレベルが四つも上がればねぇ。
もうちょっとでレベル19だしと思ったけれど、これ以上は危険だとジャングさんが判断。
だけど村へ引き返すにはもうずいぶんと遠くまで来ている。
「この先に山賊たちが使っていた小屋がある。そこへ行こう」
「じゃ、じゃあ山賊は元々、この辺りを縄張りに?」
僕の問いに彼は頷いた。
峠を通る旅人から小銭を巻き上げたり、村の作物や家畜を盗んだりとセコいことをしていたようだ。
「村には定期的に行商人が来る。その商人に作物や家畜を買って貰い、その金を税として納めていたんだ」
だけど行商人がやって来るタイミングで山賊たちも山から下りてきて、お金を奪われるときもあったという
もちろん村人もバカじゃない。
商人との取引で得たお金の半分をひとりに渡し、商隊と共に山を下りて領主へと届ける。
残った半分が奪われても、税金が支払われればそれでいい……そういうことのようだ。
「り、領主はそのことを知っているんですか? 領民をま、守ろうとはしてくれないんですか?」
「領主が守ってくれると、なぜ思えるんだ?」
うぐ。質問に質問で返されてしまった。
いや、よく考えたら今のが答えか。
「着いた。あの小屋だ」
ジャングさんが指さす先には、木々に隠れるようにして小さな小屋が経っていた。
今夜はここで一泊し、明日、もう一度レベル上げをしてドラゴンを見に行く。
念のため今夜のうちにレベル20の装備を作成しておこう。
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