第28話

「え? ジャングさんもご、ご一緒なんですか?」


 ジャングさんとお嬢様が食器を片付けに来た時、彼が「俺も行く」と言い出した。

 どうやら村長さんとは昨夜のうちに話をしたらしい。

 お嬢様のほうは心配そうな顔をしているけど、「ダメと言っても聞かない人ですから」と。これまた惚気話を聞かされる。


 でも、大丈夫なのかなぁ。


 ちょっと不安になって彼のステータスを見ると、



****************************************


 名前:ジャング 種族:獣人 年齢:28

 職業:ウォリアー

 レベル:25


 HP:1980 MP:600


 筋力:48

 肉体:25

 回避:20

 命中:5

 敏捷:22

 魔力:1

 詠唱:1


【習得スキル】

 バトルハイ☆2 / 筋力向上☆1

 肉体向上☆2 / バッシュ☆1

****************************************



 うわぁお。ステータスたっか!

 レベルも俺より一つ上だ。これは頼りになるかもしれない。

 

 それにドラゴンが住む山までの案内だって必要だ。

 僕らは改めて彼の申し出を受け入れた。


「俺の準備はできている。それでいつ出発するんだ?」

「すぐにでも。ただ道中でモンスターを倒し、レベ――経験を積んでおきたいんです」

「経験? ま、まさかお前たち、モンスターと戦った経験がないとでもいうのか!?」

「い、いえ、あります、ありますよ。ね?」


 アーシアとルーシアが頷き、だけどこの地方でのモンスターとは戦っていないから、だからなのだとフォローしてくれた。

 それを聞いてジャングさんは納得してくれたようで、この近辺に生息するモンスターの特徴をいろいろ話してくれる。


 僕らは村長に挨拶をし、それからドラゴン退治に出かけた。

 道中でジャングさんの話を聞きながら、僕の記憶にあるモンスター情報と照らし合わせる。


 だいたい適正レベル25前後のモンスターばかりだな。

 それなら僕とジャングさんは問題ない。アーシアとルーシアも、武器性能でどうにでもなるだろう。

 防具もさっきようやく、ダサい製造品を着てくれて、その上からメイド服と巫女服で見た目を上書き。


 さらに獲得経験値を六十分間2倍にするチケットで、レベリング開始だ。

 これをアーシアたちに渡すと、やっぱりビリビリと破いてしまった。






「"ダブルアロー"」


 ハゲタカのような飛行タイプのモンスターはルーシアに任せておく。

 僕はサポートに徹して、なるべく止めはアーシアとルーシアにさせた。


 パーティー機能が生きているようだけれど、僕たちのレベル差が大きく、経験値の公平設定を行えない。

『LOST Online』では、パーティーのレベル下限の人から+6までの範囲内なら、獲得経験値が公平設定にできる。

 一人でもこの範囲を外れていたら、公平設定にはできない。


 僕は24で、彼女らは14。公平にはできない。

 なので彼女らのレベルが上がるまで、僕は待つつもりでチケットも使わなかった。


 一時間狩りをしても彼女らのレベルは上がっておらず、二枚目を使い終わった時点ではレベル15に。

 特にレベルアップのファンファーレもエフェクトもないから、システム画面で確認するしかないんだよなぁ。

 お昼までに合計三枚使い、その時点では16には上がっておらず。

 次の一時間では16まで上がっていた。


 このゲーム、レベリングがマゾいと有名だったし、ここがれっきとした異世界と考えれば数時間でレベルが上がるのは早いほうだろう。

 周辺のモンスターが彼女らの適正で考えると、ワンランク以上格上モンスターだから獲得経験値が良かったんだろうな。


「凄いな……予想していたよりずっと強い。だが……それでもドラゴン退治は厳しいぞ。本当にやれるのか?」

「だ、大丈夫ですっ。それにタックさんはほとんど戦っていませんもの」

「そうよ。タックは強いんだから」

「う……む。タック様の魔法がどの程度なのか、俺も見てみたい」


 ここまで二人のレベルアップを優先にしていたから、確かに僕はほとんど戦っていない。

 スキルのレベル調整ができるか不安だし、下手すると一撃で倒してしまいかねないもんなぁ。

 ゲーム仕様なら、ショートカットキーとかあればいいのに。

 例えば――


「F1にファイア1とか登録して――え?」


 右手に違和感を覚え見てみると、そこにはファイアダブルパワーダガー+8が握られていた。

 これ……F1に登録していた短剣じゃん。


 え? なんで?


 ま、まさか……。


 慌ててインターフェースを開くと、ホログラム画面の下にショートカットキーが表示される。

 F2にはコメットレベル10か。F3にはファイアーウォール5が。


「タックさん。モンスターです!」

「ジャングに見せてあげてよ、タック」


 見せる――いや、これは検証だ。


 狒々に似たモンスターが僕らに向かって走って来る。

 ジャングさんが相手をしようと立ちふさがるが、僕は構わず唱えた。


「F2」


 ――と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る