第27話

 翌朝。僕らはドラゴン退治のための準備をする。

 相手の強さが分からないけれど、アーシアとルーシアには本気装備をして貰おう。

 今のメイド服と巫女服は、とにかく服を着て貰わなきゃと取り出したものだ。

 さて、何を着せよう。


 アバターだけじゃなく、下の装備も着せないとなぁ。

 この『LOST Online』は全キャラ製造可能なんだけども、成功率はステータス依存。

 必要なステータスは筋力、命中、魔力の三つのステータスだ。

 だから製造メインでプレイする人はこの三つを上げている。

 僕は魔力が高いものの、今のレベルではカンストも程遠い。ほかのステータスは1のままだし。

 絶望的な成功率だろうなぁ。


 ま、そこは課金アイテムでどうにでもなるけどね!


 公式ショップを眺めているとドアをノックする音が。


「タック様。朝ご飯をお持ちしました」


 声は獣人のあの人だ。

 名前は確か……。


「あ、ジャングさん。おはようございます」

「おはよう、アー……ルー?」

「アーシアのほうです。ふふ」


 ドアの向こうでそんな会話が聞こえてきた。

 そうだ、ジャングさんだ。

 どうやらアーシアとルーシアの区別ができていないようだ。髪の色やオッドアイの瞳なんかは、それぞれ色がまったく違う。

 だけどどっちの色がアーシアで、どっちの色がルーシアなのか覚えていなければ、見分けはつかない。


 僕はドアを開け二人を出迎えると、そこにはルーシアと、そして知らない人族の女性、合わせて4人が立っていた。


「おはようございます、タックさん。昨夜はご挨拶もできず、申し訳ありません」

「昨日はウメの出産に付きっ切りでしたから、仕方ありませんよお嬢様」


 ウメ? 今ウメって言った?

 首を傾げていると、ジャングさんが「家畜の牛です」と補足。


「うちで残っているのは、ウメと生まれたばかりの仔牛だけになてしまいました……」

「もしかして他は全部食べられちゃったの?」


 ルーシアがそう尋ねると、お嬢様と呼ばれた女性は頷いた。

 お嬢様ってことは、村長の娘さんなんだろうな。


 ジャングさんとお嬢様が運んできてくれた料理をテーブルへと並べる間、僕ななんとなく違和感を覚えた。


 二人が……すごく……仲がいい。


 ちょっとお互いの手が触れ合うと、顔を赤らめうふふふふ。

 バスケットに入ったパンを並べながら、体が触れるとうふふふふ。


 僕知ってるよ。

 これってリア充ってやつだろ?


「さぁ、温かいうちに召しあがってください。また後程食器を片付けに伺いますので」


 そういうお嬢様に僕は思わず言ってしまった。


「二人で?」


 ――と。

 すると図星というかその通りだっただけなんだろうけど、二人の顔が一瞬にして赤くなる。

 アーシアとルーシアはキャッキャと楽しそうに二人を見て、それを知った二人がさらに顔を赤らめて。


 もうご馳走様をしたい気分だ。


「で、では失礼いたします」


 顔真っ赤の二人が部屋を出ていくと、こちらの双子たちがほぉっとため息を吐く。


「人族と獣人族で恋……」

「いいですね。いいですねぇ。種族を超えた愛」

「タックもそう思わない?」

「え? そ、そうだね……え、えぇっと、ご飯食べようか。せっかく持って来てくれたんだし」


 ここで食べる料理は決してマズくはない。

 だけどなんというか、物足りない気はする。

 だけど仕方ないのだろう。さっきの話でもそうだったけど、家畜がほとんど残っていない現状だ。

 肉は貴重だし、畑も荒らされて野菜すらロクに採れないんだろう。


 そんな中で並んだ食卓には、それぞれのお皿に目玉焼きとわずかなサラダが乗っかっていた。

 パンもひとり一つずつ用意されていて、きっと贅沢な食事なんだと思う。


「早くドラゴン退治を済ませなきゃな。そのためにも僕らの装備を見直すよ」

「装備、をですか?」

「アタシ、これ気に入っているんだけど」

「ドラゴンは決して弱くはないモンスターだ。しっかり装備を整えて、その上で――」


 レベル上げも必要だ。

 まずは獲得経験値をアップする課金ブーストでレベルを上げる。

 最低でも敵とレベル差10以下にしておきたい。

 問題はここに生息するドラゴンのレベルだなぁ。


 確か『LOST Online』で最初に登場したドラゴンって、レベル30ぐらいだったはず。

 その位なら少しレベルを上げれば倒せるけど……。


 食事を終え、再び公式ショップを開いて必要アイテムを取りそろえた。

 製造に必要な素材も課金で販売されているのが嬉しい。

 同じ素材でもドロップしたものより、上質な物が完成する確率が少しだけ上がるものだ。


『LOST Online』の製造は、自分のレベルより低い装備レベルの物が作れる。

 幸い彼女らは僕よりもレベルが低く、作ることは可能だ。

 

 今僕のレベルは山賊を倒して20になり、クエスト報告で24まで既に上げてある。

 アーシアとルーシアは15だ。

 

 インターフェースのシステムアイコンから製造を選び、まずは作る物の種類を選ぶ。

 アーシアは剣士だが、動きを阻害する重装備はやめておいた方がいいだろう。

 なら軽装備だ。

 選択すれば僕が今のレベルで作れる装備一覧が出てくる。

 そこから防御力重視のレベル15軽装備をいったん選んで、必要な素材を確認。

 公式ショップで全て集めて、いざ製造!


 まずは製造を100%成功させる課金アイテムだ。ただしレベル50までの装備にしか使えない。

 それから製造のボタンを押すと――おぉ、ゲーム画面だとぷわぁっと光って、キャラが勝手にハンマーとか持ってトントンするんだけど、異世界だと僕自身は何もしないで勝手に形が出来上がっていくのかぁ。

 僕の目の前に素材となるなめし革が浮かび、ぽわぁっと光って鎧の形に変わっていく。

 完成したのは見るからにダサい胸鎧。

 同じようにブーツを作って、下半身用の革ズボンも作って……。


 ゲームの中では不思議に思わなかったけど、革のズボンって明らかにおかしいよね。


 製造の間、アーシアもルーシアも驚愕した目で成り行きを見守っていた。

 だけど完成した物を見て、明らかに二人は嫌そうな顔をしている。

 そして、


「かわいくありません」

「ダサすぎ」


 そう言って装備を拒否する。

 

「だ、大丈夫! 上からその服を着れば、見た目は変わるからっ」


 アバターってそういう衣装だからと説明したけれど、なかなか受け入れてもらえず。

 だから僕が実演するしかなかった。


 まずは魔力補正でガチガチに固めた、全職業装備可能な『上等な見習の服』を作成する。

 その服も二人は「ダサい」と言う。

 

 それから見た目を変更するための、これまた魔力と、あと詠唱補正のあるアバターでガッチガチに。

 さぁ、どうだ!


「まぁタックさん!」

「タック、その服どうしたのよ。まるで王子様みたいっ」


 濃紺色の長いコートに銀の刺繍があしらわれ、胸元には白のレースのスカーフが揺れる。ズボンは同じ濃紺色の、ピッチピチしたものだ。

 ロングブーツは真っ白で、真っ赤なマントは左肩だけにかかった短いもの。


 ……性能だ。せ、性能重視なんだ!

 恥ずかしくないって言ったら、恥ずかしくないんだからな!!

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