第26話

「さ、山賊を退治してくださるですって!? い、いや何故急に?」


 僕は頑張って昨夜の話をした。

 五人の男たちは土の中だ。永遠に眠って貰っている。


 仲間がやられたと分かったら、残りの山賊たちが仇を討とうと村へやってくるかもしれない。

 さっきのおじさんといい、この村長といい。

 久しぶりに『親切な人間』と思える感じの人たちだった。

 できれば村の人たちに迷惑を掛けたくない。

 だから退治する。


 何度も何度も噛みながら、何度も何度もどもりながら、それでもようやく話し終えることができた。

 最後にアーシアとルーシアに視線を送ると、二人は笑みを浮かべ頷いてくれた。

 協力してくれるようだ。


「旅のお人。あなたの申し出はとても嬉しいのですが、山賊がこの村に来ることはないでしょう」

「え? か、確証でも、あ、あるのですか?」

「はい」


 あるのか!?


「実はこの村のすぐ裏手にある山で、数十年ぶりにドラゴンが目覚めまして」

「「ド、ドラゴン!?」」


 僕も、そしてアーシアたち二人も、さすがに驚いて声を上げた。

 ファンタジーでは定番の、最強種族ドラゴン……出てくるの早くない?


「ドラゴンが恐ろしくて、奴らは村には近づかないのです」

「そ、そう、なんですか……。そ、それで、ドラゴンが村を襲ったりとか、大丈夫なんですか?」


 ここで村長さんは盛大なため息を吐く。

 あーうん。分かった。

 バッチリ襲われてるんだね。だから疲れ切った顔をしていたのか。


 予想通り、村長の口から村の家畜が襲われ、畑は荒らされ放題だと聞かされる。

 そりゃあ大変だ。


「た、退治とか、しないんですか?」

「先々週、村の若いもんに金を持たせて、町まで行かせました。冒険者を雇うために……しかし、村のもんは帰ってこないし、冒険者も来ません。おそらく、峠で山賊に……」


 あぁ、お金を盗まれたか殺されるかしたんだろうな。

 もう一度誰かにお金を持たせても、結果は同じだろう。


「ドラゴンはそのうち眠りにつきます。それまで、耐えるしかありません」

「け、けどっ。も、もしドラゴンが人を襲うようになったら、ど、どうしるんですか!?」

「どうしる?」

「ぷふふ。タック、噛んだわね」


 くぅ、ツッコミ入れないでくれよ!


 村長さんの答えはなく、それは人を襲うかもしれないという証拠でもあった。


「わ、分かりました! ぼ、僕がドラゴンと、そ、そして山賊の両方を倒します!!」

「な、なんですって!?」

「タックさん、立派です。私ももちろん、お手伝いいたします」

「タックってば、カッコいいじゃない。アタシだってもちろん手伝うわよ」


 僕たちがそう言うと、村長さんは瞳を潤ませ頭を深く下げた。

 下げすぎてテーブルにごつんとぶつけると同時に、僕の視界にメッセージが浮かぶ。


【クエスト:ピタリー村を救え。を受諾しました】


 そう書かれていた。






「どうぞ、ゆっくりおくつろぎください」

「あ、ありがとうございます」


 獣人の男性がそう言って案内してくれたのは、村長宅の隣にある二階建ての家にある一室。

 部屋は4.5帖ぐらいかな。ベッドは二つあって、泊まるだけならこのぐらいで十分だ。


「食事は部屋にお運びしますが、あの子らと別々に召し上がりますか?」

「あ、いえ、い、一緒で」

「……分かりました。では時間になったらお持ちします」

「お、お願いします」


 深々と頭を下げた男の人は、そのまま階段を下りて行った。

 さっきの間はなんだったんだろう?


「タックさん」

「タック」

「あ、二人とも。食事はこの部屋に三人分運んで貰うことにしたよ」

「はい」

「分かったわ」


 部屋は別々。なのに結局二人は僕の部屋に来てくつろいでいる。

 まぁいいか。寝るとき別々ならそれでいいし。


「タックさん、さっきの獣人の方みました?」

「え、うん……見たけど、何かあったの?」

「あったもなにも、あの人、奴隷の首輪をしていなかったのよ」


 首輪……そんなの、気にしてみてないから気づかなかった。

 だけど二人にとってはそれが不思議で仕方なかったようでだ。


「奴隷ではないのでしょうか」

「時々、外に出稼ぎに行く同族の話も聞くわ。もしかしてそれなのかしら」

「出稼ぎ?」


 異世界でもそんなものあるんだ。

 だけど僕が思っていた出稼ぎとは、少し事情が違った。


「私たち獣人の中には、多産の部族もあります」

「アタシたちは多産ではないほうだけど、犬族は多産なのよね。さっきの人は犬族で、口減らしのため出稼ぎに出てると思うわ」

「く、口減らし!?」


 小説や漫画でよく目にするのは、口減らしで殺しとか人柱にするとか、あとは奴隷にするというものだ。

 出稼ぎの事情がそんなことだったなんて。


 子供が多くて、家族を養えないから、年長の者から順に出稼ぎに出るのだという。

 家族のために自分から出ていく者もいれば、いやいや村を追放される者もいるのだとか。


「だけどあの人……痩せ細ってないし、暮らしぶりは悪くないのかもね」

「そうですね。きっとこの村の人たちは、いい人なんだと思います」

「そう思いたいわね」


 二人の会話に、僕も心底頷いた。





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