第24話

 とある町の酒場で、鼻水を垂らしガクブルと震える人相の悪い三人組の男がいた。


「っくしょー。あれから何日も経ってるってのに、まだ震えが止まらなぶえっくしょいっ」

「まったくだ。あのくそ野郎。今度あったらタダじゃおかねえ――っきしっ」

「あぁ。そんでもってあの双子の獣人娘を、気絶するまでばっこんばっこんしてやるぜーークチュン」

「……お前、かわいいくしゃみするんだな……」


 そんな会話を聞いていたのは、これまた人相の悪い一行だ。

 一人はぶくぶくと肥え、酒場の椅子一脚では入りきれず二つ並べた状態で腰を下ろしていた。

 でぶでぶ肥えた男の指には、十本全てに大粒の宝石を乗せた、趣味の悪い指輪が光る。

 宝石が大きすぎて指が閉じられないのか、それとも指が太すぎて閉じられないのか。

 その人差し指をくいっと振ると、近くに控えていた人相の悪い男のひとりが立ち上がった。


「ちょっといいか旦那がた」


 立ち上がった男らは三人組へと近づくと、酒場の従業員を呼び酒を注文した。


「ずいぶんとしつこい風邪みたいだな。まぁホットエールでも飲んで、温まってくれや」

「ん? なんだテメー」

「おほぉ、気が利くじゃねえか」


 運ばれてきたのは、白い湯気のの立つエール酒。

 それを受け取った三人は、だがすぐには口を点けず男を見上げた。


「で、何が目的だ?」

「情報か? それとも俺たちの力を借りたいのか?」


 そんな三人組の反応に、男は軽く鼻で笑う。だがそれを三人組には見せず、男はにんまり笑って言葉を続けた。


「話が早くて助かるぜ。俺が欲しいのは情報。さっき話していた双子の獣人なんだが、いつ見たのか教えてくれねーか?」


 そう言って男は銀貨をチラつかせた。


「探してんのか」

「まぁね。元はうちの雇い主の持ち物だったんだが……」

「逃げられたってことか」

「いやぁ、恥ずかしい話だけどな。で、いつ見たんだ?」


 三人組は顔を見合わせ、それから掌を上にして持ち上げるような仕草をする。

 情報量の値を吊り上げようというのだ。

 

 男も想定内だったようで、笑顔でそれに応じる。

 見せた銀貨を懐にしまいこみ、新たに取り出したのは金貨。

 それを見て三人組の目の色が変わった。


「み、三日前だ」


 三人組のリーダーが金貨を受け取り、それを残りの二人と共に見つめる。

 それから気をよくした三人は、双子の獣人の服装なども話し、そして男がひとり一緒だったと伝えた。


「男?」

「あぁ。男といってもガキだありゃ。16、7ぐらいか」

「黒い髪に赤い目のガキだが、とんでもねー魔法を使いやがるんだ」

(魔法……魔術師か。これは厄介だな)


 そう思った男だが、真実は違った。

 三人組が言うガキというのはタックであり、彼は現在エターナル・ノービスではあるが……彼が習得した魔法は魔導士クラスのものもある。

 

 彼らが思いもつかない、死すら超越した存在などと知るはずもなく。


「あんた、あの三人組を追うのかい?」

「うちの雇い主がどうしてもあの双子が欲しいっていうんでね」

「そうか。じゃあ俺らも手を貸すぜ」

「……お前さんがたに、それをする理由があるのか?」


 三人は立ち上がる。


「ある」

「やられたまんまじゃ、俺たちの気がおさまらねー」

「報復なんだよ、これは」

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