第23話

 夜は交代で見張りをすることになっている。

 まぁ今までモンスターに襲われるなんてこともなかったけれど、二人がそうしたほうがいいと言うからね。

 モンスターが寄ってこないのは焚火なのだろうか?

 ゲームでもフィールドにあるキャンプ地──クエストの受注報告ができるセーフティーゾーンだけど、そこは焚火があるからモンスターが襲ってこないとかNPCが話していたし。


 だから火を絶やさないよう、時々薪をくべるのが見張りのお仕事だ。

 だけどこれ、眠くなるんだよなぁ。


「──はぐっ」


 な、なんだこの燃えるような胸の痛み。

 う、そだろ。


「ひゅーっ、ひゅーっ」


 声が出ない!?


「はっはーっ。苦しいか? 今楽にしてやるよ」


 背後で男の声がして振り向くと、男が五人立っていた。

 そのうちのひとりが弓を手にし、今まさに矢を射ったぞと言わんばかりのポーズ。

 まさか……この痛みって!?


 アーシア、ルーシア、逃げろっ!


 そう叫ぶよりも先に、胸が燃えたように熱い痛みに襲われた。


「──っ!」


 目を見開き声を上げる。

 短剣を手にいやらしく笑う男の姿と、夜空を赤く染める血しぶきとが目に入った。


 これ……俺の……血? 


「いやぁぁっ、タックウゥゥッ」

「タックさん! タックさぁん!」


 首を動かし声の方へ視線を向けると、男に捕まった二人の姿が――だけどこれはなんだ?

 色のある世界が、突然モノクロ画像のようになる。

 彼女らと、そして男たちが動くのも見えるけれど、色がない。


 そしてさっきまであった胸の痛みもなくなった。


 モノクロ画面で視界に映る者の名前が頭上に浮かぶ。

 アーシアとルーシアの名前は白い文字で、男たちは赤い文字。

 これってゲーム仕様と同じ?

 赤は敵エネミーに使われる色だけど……そう思っていると視界に文字が浮かんだ。


【戦闘不能状態になりました。その場で復活しますか?】

【はい / いいえ】


 戦闘不能……え、まさか僕、死んだのか!?

 っていうかその場で復活しますかってどういうことだ!?


 いや……僕はゲーム仕様なんだ。

 オンラインゲームなら死ぬ=戦闘不能で、復活できるのは当たり前。

 その場でってことは、復活アイテムを消費するとかなんだろうか。

 確かにそのアイテムは持ってる。モンスターからのドロップで得られる方は、低確率で失敗するけれど。

 その点課金アイテムなら100%成功する。


 奴ら、僕だけ殺してアーシアとルーシアを攫う気か。


「やめてっ。離しなさいよ!」

「タックさんっ。タックさん目を開けてくださいっ」

「ひぎゃはははは。もう坊主は死んでるんだよ。大人しくしなっ」

「しかしこんな上玉が転がってるなんざ、俺たちもつてるなぁ」

「おい雌ども、今からたっぷりかわいがってやるからよぉ、楽しみにしてな」


 なんて下品な奴らなんだ。

 許さない。

 二人は僕にとって大事な人たちなんだ。

 蔑むことも、犯すことも――触れることすら許さない!


 その場復活だ。はいだはい!


【使用するアイテムをお選びください】

【フェニックスの羽のレプリカ / フェニックスの羽】


 当然課金アイテムのフェニックスの羽に決まっている!

 むくりと起き上がって男たちに向かって歩き出す。


「あれ? なんだこの服。全然やぶれねーぞ?」

「あぁん? お、本当だ。なんて頑丈な服だ。これはこれで高く売れそうだな」

「だったら脱がせばいいってことだ。けけけ、さぁお嬢ちゃんたち。自分でおべべ脱いで貰おうか?」


 二人にばかり意識が行って、男たちがまだ僕の存在に気づいていない。

 五人の男たちがアーシアとルーシアを取り囲み、そのせいで彼女らからも僕は見えていないようだった。


「そ、それ以上近づいたら、殺すわよ!」

「げひゃひゃっ。威勢のいいねーちゃんだぜ。決めた。俺はこっちのねーちゃんをいただく」

「おいおい、勝手に決めんな。俺は先だっ」

「喧嘩すんなっ。いつもの通り、じゃんけんだじゃんけん」


 じゃんけんで女の子を犯す順番を決めるなんて……下衆が!


「タックさん……タックさん……」

「起きてよ……助けてよタック!!」


 そんな二人の叫びに、僕は「うん、分かった」と答えた。


「「え?」」


 呆けたような二人の声が聞こえる。

 だけど男たちは気づかない。

 僕は小声で「"アイスストーム"」と唱えた。


 地面設置型の魔法は、スキル名を唱えるとかりそめの魔法陣が出現する。

 その魔法陣は僕の指先の動きに合わせて移動し、ここだと思った場所で人差し指で押す・・。マウスの左クリックをしているつもりで。


 コボルトのボブを倒したフレイムバーストも、町で悪漢たちを倒したこのアイスストームも地面指定型の範囲魔法。

 ターゲットを選択するスキルの場合、唱えると狙った相手がちょこっと光って見える。

 ゲームでもだいたいそうだ。ターゲットが光る。


『LOST Online』はノンターゲティングの部類なので、目視した先が狙う場所扱いになるんだよね。

 この異世界でもそれは同じなようだ。


 マウス左クリックに対応した人差し指をくいっと振ると、今度は正真正銘の魔方陣が現れる。

 ぐるぐる回転する魔方陣に合わせ、中では冷気が渦巻き始め、ここでようやく男たちは気づいた。


「な、なんだこの光は!?」

「なんかぐるぐる回ってんぞおい」


 慌てふためく男たち。

 ひとりが振り向き、僕に気づいた。


「ひっ! お、おい、坊主が生きてやが――」


 そこまで言って、彼は氷漬けになった。


「タック!?」

「タックさん!?」

「二人とも、その氷を叩いて! 僕は動けないからっ」


 魔法の効果時間は10秒ほど。その間動けない。

 二人は言われた通り氷を叩き、氷は呆気なく割れ……そしてまた男たちは凍り付く。


 二人がもう一度氷を割ると、二度凍結した男二人はそのまま地面に倒れて動かなくなった。

 そこでアイスストームは終了。


「残りの三人はどうしようか。このままにしておくとそのうち氷も勝手に割れてしま――」


 そこまで言うと、どんっと軽い衝撃を受け後ろに倒れこんでしまった。


「タックタックタックタック!」

「タックさんタックさんタックさん!」

「もうバカバカバカッ。死んだと思ったじゃない」

「ご、ごめん……でも死んでたんだ。死んでたけど、君たちのために蘇ったよ」


 たまには少しだけかっこつけてもいいよね。

 それに嘘じゃないんだから。


 泣いてすがる二人の背中をぽんぽんと叩き、それから残りの三人に止めを刺すため杖を構える。

 全職業装備可能な杖なので、正直ステータス補正は高くない。だけど今の僕が装備できる杖の中では、一番数値の高い杖だ。

 さて、何の魔法を使おう。


「待ってタック。アタシにやらせて」

「タックさん。この男たちは私たちの手でやらせてください」

「え? う、うん……分かった」


 辱めを強いろうとした男たちへの復讐だもんね。二人に任せよう。

 それぞれが武器を構え、氷漬けになった男たちへとそれが向けられる。

 そして。


「タックの仇よ!」

「私たちの大事なタックさんを殺すなんて、許せません!」


 そう言って二人は三人に止めを刺した。


 彼女らは、僕のためにやってくれたんだ……。

 ありがとう。本当にありがとう。

 



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オンラインゲームの強いところは──その場で復活ができること!

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