第22話
「「いただきます」」
二人は同時におにぎりへかぶりついた。
むむ。表情は何も変わらない。
さすがに一口目では梅干しまで届かないか。
白米に海苔。それだけでも二人は幸せそうに食べていた。
僕も一口――うん。やっぱり梅干しまで届かないや。
あ、そういえばこの梅おにぎり、種は入っているのかな?
間違って飲み込まれると危ない。
ぱくぱくと食べ進めていくと、危惧していた種があった。
「二人とも、中の具の中に種があるから、それは吐き出してね」
「んぐんぐ。分かったわ」
「むぐむ……むむむぅっ」
あ、アーシアが梅干しに到達したみたいだ。
尻尾は毛先から根元へ、じょじょに毛が逆立っていく。
可愛らしい顔がしぼんでいき、目がぎゅっと閉じて耐えているようすが伺えた。
「どうしたのよアーシア。面白い顔して。はぐっ……はうっ――んんんっ」
ルーシアも梅干しの洗礼を受けたようだ。
こちらは眉尻を下げ、助けを求める視線で僕を見ていた。
「梅干しっていうんだ」
「ん、んめぼひ」
「すっぱーっ。な、なんなのよこれっ。無理、絶対無理よ!」
「あはは。ごめんごめん。じゃあ口直しにこっち」
涙ぐむルーシアに渡したのはシーチキンマヨ。
彼女が警戒するので中を割って見せると、同じように自分が持つ梅おにぎりを割って中身が違うことを確認してから受け取った。
そしてルーシアが手にした梅おにぎりは、アーシアがごく自然に受け取る。
「アーシア?」
「んめぼし、おいひいでふ」
「うっそっ。アーシア、それが美味しいっていうの? 何かの冗談?」
ルーシアの言葉にアーシアは首を横に振り、頬を染めながら「おいひい」と続ける。
アーシアは梅干しの魔力に取りつかれたみたいだ……。
ルーシアは口直しのシーチキンマヨが気に入ったのか、にこにこ顔で夢中になって食べている。
この数日間、二人と過ごして分かったのは、双子でありながら感情表現が微妙に違うこと。
主に尻尾の動きだけど、美味しい物を食べているときアーシアは尻尾の先っぽだけを揺らす。
ルーシアは尻尾全体をゆっくり揺らす。
性格の違いが出ているんだろうなぁ。
双子の微笑ましい食事風景を見ながら、僕はふとあることが気になった。
僕がこの世界に来た時、穴の中に寝かされていた。
死んでいたと二人は言うけど、まぁそれはいいとして。
二人は人族を恐れていた。
それは獣人族が人族に虐げられてきたから。そして彼女らは奴隷狩りに会い、攫われてきた。
どうにかして奴隷商人の下から逃げ出して来たみたいだけど、なぜ二人は僕――死んだ人族を埋葬しようとしていたのだろう。
「アーシア、ルーシア。君たちは僕を見つけた時、埋めようとしていたみたいだけど」
「んぐっ」
「ル、ルーシア、大丈夫!?」
「大丈夫ですタックさん。ほらルーシア、ジュース飲んで」
いきなりの質問にルーシアが喉を詰まらせてしまった。
ようやく落ち着くと、二人は何故か謝り始める。
「ご、ごめんなさいタック。あ、あの時は本当に死んでいたのだと思ったの」
「本当に心臓の音が聞こえなかったんです。だ、だから亡くなっていらっしゃるのだと思って」
「あー、いやそうじゃないんだ。僕が聞きたいのは、君たちは人族を憎んでいるのに、なぜ人族の死体を埋葬してやろうとしたのかなって」
尋ねなおすと、二人はお互いに顔を見合わせ少し考えてからルーシアが先に口を開いた。
「アーシアが放っておけないって言うから」
「ルーシアがこのまま晒しものにしていたら、獣に食べられて可哀そうだって言うんです」
「か、可哀そうだなんて言ってないわよ! 可哀そうって言ったのはアーシアでしょ」
「ルーシアも言いました。食べられると可哀そうだって」
「ち、違うわっ。人族なんかを食べる動物のほうが可哀そうだって言ったのよ」
「タックさん。ルーシアは優しいんですよ」
「ちちち、違うわよ! 優しいのはあんたよアーシアッ」
うん。二人とも優しいってことは、僕にも分かるよ。
優しい優しくないとバトルを繰り広げた後、二人はぽつりと漏らした。
「死んだら人族も獣人族も、妖精族もみんな同じだもの」
「亡くなった方は憎めませんから」
そう言って二人は最後の一口となったおにぎりを口にした。
「んん~、すっぱぁ~おいひぃ」
「……信じられないわ」
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