2章:ゲーム仕様の強み。

第21話


「港町まで真っすぐ西に進むのですね」

「うん。街道は一度南に行って、ぐるっと遠回りするようにしか道がないし。それに街道だと君たちを攫った奴隷商人と顔を合わせる可能性もあるからさ」

「そうね。アタシたちは土地勘がないもの。進むなら街道を戻ると思うでしょうし」


 町を出て二日目。

 ピュロロが走れる道はここで終わっている。

 いや、ゲーム仕様のピュロロだから走れるのだろうけど、乗っている僕たちは最悪だ。

 ここから緩やかな山道に入って、道も整備されていないので凸凹だ。

 人力車が跳ねると乗っている二人が振り落とされるかもしれない。

 そして僕のお尻が真っ赤に腫れ上がること間違いなし!


 それに……。

 ゲーム仕様の地図を開いて凝視する。


 この先は『LOST Online』で未実装だったエリアだ。

 道を知らないし、生息するモンスターもよく分からない。

 いや、これまでのことを考えると、遺跡以外のフィールドでは生息するモンスターがまったく違っていた。

 

 新エリアを進む際は慎重に。

 という訳で、ここからは徒歩で進むことにする。

 

 先日のコボルト狩りで僕のレベルは13に上がっていたから、またクエスト一覧から直接報告できるものは消化。

 レベルは今19になっている。

 あと1上がればまた報告できるものもあるけれど、クエストアイテムの消費で楽してレベルあげももうすぐ限界だなぁ。

 この先は報告対象がNPCだったりオブジェがほとんどになる。


「この先は山道ね。だけどそんなに険しくはないし、途中に村があるみたい」

「そうだね。ここから見ても、それほど標高の高い山ではないようだよ」


 僕たちの前方にはいくつかの山が連なっていた。

 ただ見た目にも標高の低い山がいくつも並んでいるだけで、険しい山道というのは想像しがたい。


 やがて僕らは山道へと入りゆっくりと登って行った。

 それで気づいたのだけど、いくら緩やかな坂道とはいえまったく疲れを感じないんだけど。

 これもゲーム仕様故なんだろうか。


 いや、アーシアとルーシアの二人も元気だ。


「ふ、二人は山道を歩くのに慣れているのかい?」

「はい。私たちの故郷は山の中にありましたので」

「それこそこんな感じの、低い山の合間にあった村よ。周りは森に囲まれていて、狩りのときには山や森を走り回っていたもの」

「このぐらい平気です。タックさんはどうですか? お疲れでしたら、少し休みますけれど」

「いや、僕も平気だよ」


 山育ちの二人だと体力の基準にはできないか。

 

 一つ目の山を越えたところでお昼の時間に。


「タックさん、果物を取り出していただいてもよろしいですか? ジュースにいたしますので」

「分かった。先に出しておくね」


 先に敷物を取り出し、それをルーシアが受け取ってその辺に敷く。

 それからアーシアに頼まれた果物と調理器具、食器を取り出して彼女の方へ。


 今日のお昼は何にしよう。


 手軽に食べられるピザなんかいいな。それにフライドポテトなんかどうだろう。

 ポテトには一時間、移動速度上昇効果がある。

 あるのかどうか分からないけれど、もし効果があるなら山道を早く歩けるようになるかもしれない。


 取り出したピザは、ご丁寧に箱入りだった。

 サイズとしてはMサイズだな。中はちゃんと切り分けられていて六枚切り。

 ひとり二切れずつ。


「熱いうちに食べよう。冷めるとチーズが固くなってしまうから」

「こ、これは何? な、なんて香ばしい匂いかしら」


 ルーシアの尻尾が小刻みに揺れ、感動しているのが分かる。


「こちらも終わりました。まぁ、本当に良い匂い」

「チーズがとろっとろだから、こぼさないよう気を付けて」


 そう言って僕がまず一枚取る。

 とろぉ~っと伸びたチーズを見て、二人は目を丸くした。

 その伸びるチーズを見つめ、それから僕を見つめ、もう一度チーズを。


「冷めちゃうから」


 そう言って僕が笑うと、二人ははっとなって慌てたようにピザを手に取った。


「はぁぁん。伸びるわ、伸びてるわっ」

「こ、これがチーズ……。初めてみました」

「え? 初めて?」


 こくこくと頷き、二人はピザをぱくりと頬張る。

 二人の尻尾がビビビビっと逆立ち、そして顔が高揚していく。


「はふっ、はふっ。おいひいぃ」

「はふはふっ、本当にねぇ~」


 喜んでもらえて良かった。


 午後からはポテト効果で、確かに1時間ほど歩く速度が速くなった気がする。

 

 山間の村にはその日のうちに到着することは出来ず、途中で野宿をすることに。


 テントは二つ。さすがに彼女らと一緒のテントでは、僕が眠れない。

 アイテムボックスからテントと薪、敷物を取り出し、テントの組み立てをアーシアとルーシアに任せる。

 僕は薪をいくつか重ね、ファイアダガーで着火!


 町で大量購入した水筒には、道中の川で水を汲んでストックしてある。

 その水を鍋で沸かして、温かいお茶をアーシアが淹れてくれた。


「テントの準備もOKよ」

「お茶も入りました」

「うん。じゃあご飯にしよう。今日はハンバーグ、それとおにぎりだ」

「今晩のおにぎりには何が入っているの!?」


 ルーシアが嬉しそうに僕のそばへとやってくる。

 ふふ。今晩のおにぎりは――


 梅干し!!


 きっと梅干しなんて食べたことがないだろう。

 ふふ、どんな反応を見せてくれるか楽しみだ。

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