第18話

 カーテン越しに陽が差して、部屋がうっすらと明るくなり始めた時刻。

 僕は

 一睡もできなかった。


 僕の右腕はアーシアに、左腕はルーシアにそれぞれがっつりと固められ、さらに二人の尻尾が毛布のように被せられとても暖かいです。

 こんな状況で眠れるはずがないだろう!


 ガッチガチに緊張して固まっている間にも、僕はあることを知った。


 アーシアは白。

 ルーシアは青と白の縞模様。


 二人が昨晩選んだ水着だ。


「ん……ふあぁ……」

「ん……あふぅ……」


 や、やっと起きてくれた!?


「おはようございます、タックさん」

「おはようタック。よく眠れた?」


 眠れるわけないでしょう!


 体を起こし伸びをした二人がようやく僕を解放してくれる。


「それでタックさん。これからどうしますか?」

「タックがどうしたいのか、そういえば聞いていなかったわね」

「え、ぼ、僕?」


 僕がどうしたいのか……。

 うぅん、急にそう言われてもなぁ。


 まぁ強いて言うなら、せっかく異世界に来たんだから楽しみたいとは思う。

 地球ではできなかったことが、ここでは現実としてできるんだ。


 剣と魔法。

 冒険にダンジョンにモンスター!

 

 この世界を生き抜くための力もあるし、僕だけゲーム仕様で無双も夢じゃないかもしれない。


 あれ?

 なんか僕、ワクワクしてきたぞ。






「はぁん? 冒険者ギルドはどこかって?」


 異世界あるある要素の代名詞ともいえる、冒険者ギルドはもちろんあった。

 そもそもアーシアたちの村で冒険者を雇っていたという話を聞いてから、あるだろうなという確信はあったし。

 その役目も予想通りのもので、アイテムの買い取りや鑑定、仕事の紹介などなど。


『LOST Online』では冒険者ギルドというのはなかったかれど、ゲームの都合上、クエストを紹介したりする組織は合った。

 それが異種族連合軍。

 300年前にはあった異種族連合軍がやっていたことを、冒険者ギルドがそのままパクっているのか引き継いだのか、とにかくそういうことだ。


 アーシアが宿の主人にギルドの場所を聞いてくれているが、すごく嫌そうな顔をしている。

 アーシアが振り向き僕を見つめるが、その意味が分からない。

 すると僕の隣にいるルーシアが顔を寄せ、ぼそりと「チップよ」と教えてくれた。

 ついでに少しお胸さまが当たってしまい、僕は大変なことに。

 僕の装備はマントとコート。こういうときもろもろを隠せて便利だな。こんな機能が備わっていたなんて、ゲームの時には分からなかったよ。


 アーシアに頷いて見せると、彼女はポケットから20Lを取り出し店主へと渡した。

 ちなみにこの世界の貨幣は、1Lが1円玉よりも小さい銅貨。10Lが10円玉サイズの銅貨。100Lが100円玉サイズの銀貨で500Lが500円玉サイズの銀貨だ。

 1000Lは当然金貨で、100円玉と同じぐらいの大きさだ。


「……ギルドは宿の外だ」

「外、でございますか」


 いや当たり前だろそんなの。

 だがおっさんはニヤりと笑うだけでそれ以上話そうとしない。


「足元見てるわね。タック、ギルドを探すなら歩いて探せばいいわ」


 ルーシアが再び囁くようにして教えてくれる。

 20L……たぶん日本円にして2000円の価値がある。その辺りはさっき食べた朝の定食メニューと比較してだ。

 コンビニ弁当が500円前後。同じぐらいのボリュームで5Lだったので、1Lが100円として計算した。


 ホテルに泊まったのはガキのころ。両親とは僕だけ違う、大きめの部屋にポツンと宿泊させられてたっけ。

 チップは親が支払ったので相場は分からない。

 ルーシアの言う通り、僕たちの足元を見ているのだろう。


 お前らならもっと払えるだろ――と。


 くっ。汚い大人め。

 払ってやろうじゃないか!


 アーシアの所へ行って彼女のポケットに手を突っ込んだ僕は、そこから金貨を取り出しおっさんの前にバンっと叩きつける。


「ギ、ギルドはどこにあるっ」


 1000L=10万円のチップだぞこのやろう!

 

 それを見たおっさんの顔が一瞬にして硬直する。

 くちをぽかーんと開けたまま、しばらくそのまま数十秒。

 瞬きをしたかと思ったら、今度は金貨を僕とを見比べて目を白黒させた。


「こ、ここ、こ、ここれを……うぇぃ!?」

「ぷはっ。う、うぇぃじゃなく、ギルドがどこにあるのか教えてくれ。今すぐっ」


 うぇぃってなんだよ!

 思わず笑ってしまったじゃないか!

 アーシアもルーシアも、お互い顔を背け合って、堪えてはいるけど目と口元が笑っている。


 おっさんは大事そうに金貨を握って、それから、


「ご、ご案内させます。お、おーい、かーちゃんや」


 そう言って人を呼んだ。

 だけど返事はカウンターの奥ではなく、僕らの後ろから。


「へっへ。ギルドに行きてえのか。だったら俺らが案内してやるよ」

「護衛もしてやるぜぇ。町ん中は物騒だからなぁ」

「その代わり、護衛と案内賃でひとり1万L頂く」


 どこからどう見ても、悪そうな3人組が後ろに立っていた。







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