第15話

「おはようタック。寒くなかったの?」

「おはようルーシア。マントを三枚出していたから、平気だったよ」


 季節もあるんだろうな。

 二人に尋ねると、今はちょうど春から夏に移り変わる時期だという。

 この世界でも春夏秋冬の言葉があたので、分かりやすくてよかった。


「せっかくだし、ライド獣でこのまま移動しようと思う」


 とはいえアルパカはネタライドだ。可愛いと人気ではあったけれど、移動速度は人が走る速度と同じぐらい。

 僕ら三人だとちょうどいいのがある。


 取り出す前に、どうやってライドエッグに戻せばいいのか。

 アルパカのどこかにスイッチとかあるのかな?

 そう思って触ると【ライドエッグに戻しますか】と、ゲームでは右クリックすることで出てくるメッセージが浮かんだ。

 

 なるほど。触ればいいのか。

 じゃあ次のライドエッグを取り出し、目的のライドを呼び出す。


 ダチョウのような鳥のモンスターのピョロロ。

 背中には鞍が一つだけれど、後ろには人力車がベルトで括りつけられている。

 合計3人が乗れる、ライド獣だ。

 ピョロロだけなら移動速度はプレイヤーの5倍。人力車をつけることで少し下がるが、それでも3倍のスピードが出る。


「これに乗っていこう!」


 さすがに人力車を走らせるとなると、街道を行かなければならない。

 例の奴隷商人のことは気にはなるけれど、ピョロロに乗ってすれ違っても気づかないだろう。

 念のため二人には髪型を変えるための頭装備を出してあげた。


「アーシアはメイドのヘアバンドとリボン。ルーシアには鈴つきのリボンだ。髪はさすがに結べないから、どう使うかは任せることになるけど」

「大丈夫です。髪は結えますので」

「やだ、かわいい」


 鈴の付いたリボンを、ルーシアは気に行ってくれたようだ。

 二人が髪を結い終わるのを待って朝ご飯に。

 それから出発だ。


 ゲームだと休みなしで走らせられるのだけど、現実じゃそうはいかないかな。

 そう思っていたんだけど、このピョロロは特に疲れた様子も見せず、ずっと走り続けてくれた。

 ライド獣もゲーム仕様なんだろうか。


 お昼だいぶん過ぎたところで地図の下に現在地アイコンが停滞。しばらくして次のエリアの地図へと変わった。

 停滞しているのは、もしかしてゲームの地図と実際の地形の尺が違うとか、そういうのなのかな。


 その地図を見る限り、今のスピードでも町への到着は夜遅くになりそうだ。

 そのことを二人にも伝え、途中で一度晩御飯休憩をとることに。


「今日は思い切ってこのおにぎりにします!」

「ごくりっ。な、中に何が入っているのよ」

「あぁ。お、お肉の匂いがします」

「そう。お肉だ。焼肉だ!」


 筋力と肉体のステータスが30分間+1されるおにぎりだ!

 料理レベルが高ければ、最大+10までされるんだけれども。ミーナから買ったのはすべて+1補正のものばかり。

 ネタとしてイベントの賞品にするための物だったからね。

 だけどお腹を満たすのが目的ならそれで充分だ。


 二人は焼肉おにぎりを気に入って、それはそれは愛おしそうに食べていた。


 そのあと周囲を確認すると言って二人が巨木に上って行くと――


「ご主人様っ、町が見えました!」

「タック……さまの予想より少し近いんじゃないかしら」

「え? 本当に?」


 僕の地図だとここからもう少し南にあるんだけれども……300年の間に別の町でもできたんだろうか。


 巨木に上った二人に視線を向けると、その時僕は知ってしまった。


 アーシアは黒。

 ルーシアは白。


 二人が選んだ水着の色を、僕は知ってしまった。

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