第12話

 周りの意見に流される人は、オンラインゲームでもよく見る。

 ステータスを上げるとき、人に教えられた通りに上げたり、スキルも人の意見に従って取ったり。

 まぁそれが悪いことというわけではない。

 他人に求められるスタイルというのは、往々にして定番スタイルでもあるからだ。

 あとは本人のプレイヤースキル次第だけど、地雷プレイヤーでもなければ困ることはないスタイルだし。


 ただ……。


 異世界仕様の彼女らのステータスは、意図的に上げられないはず。

 さすがに他人のステータスを操作する方法は、『LOST Online』にもない。

 ならステータスに合った職業を選ぶほうがいい。


 確かに勝気なルーシアがソードマンで、おっとりしたアーシアがアーチャー……もっと言えばクレリックというのが、イメージには合っていると思う。

 だけどこの二人、イメージとは異なるステータスなんだ。


「私が……ソードマン……」

「アタシがアーチャー……」


 僕がおすすめする職業を伝えると、二人は考え込んでしまった。


「しょ、職業の変更とかって、出来るのかな?」


 だが二人は首を振る。

 この世界の職業というのは、神の前で誓い、そして固定されるのだという。


 あぁ、それってキャラメイクの時にやるやつだよね。

 どの職業を選ぶか選択肢を出され、選んだらもう固定されるから変えられませんよって。


「なんでそこはゲーム仕様なんだよ!」

「ひぅっ。そ、そんなこと言われましてもぉ」

「ア、アタシたちが知るわけないでしょ! だいたいゲームって何よっ」

「あ、ご、ごめん。き、君たちに怒鳴ったんじゃないんだ。ほんと、ごめん」


 ついツッコミを入れてしまって、二人を怯えさせてしまった。

 反省。


 だけど今の会話で光明が差した。


 そこはゲームと同じ。

 なら、アレが使えるんじゃないかな。


 僕は公式ショップを開き、ショップ内でも最高価格のアイテムのあるページを開いた。


【転職チケットシリーズ】


 正式サービスが開始されて一か月ぐらいの頃だったかな。

 不具合修正のパッチが当たり、そこでさらなる不具合が発生した。


 なんと、キャラメイク時に選択する職業が、一覧から見て下に一段ずつずれた状態でゲームがスタートするという不具合が。

 しかもこのゲーム、1st、2ndとキャラを作れるが、それ以上のキャラクタースロットは課金のみ。

 その1st、2ndはセキュリティの関係上、キャラクターの削除に1週間、再作成までに1週間と、合計2週間も待たされる。


 それはまずいということで、急遽作成されたのがこの転職チケットだ。

 当時は無料配布されたけど、再配布の声もあって課金アイテムとして登場した。

 1枚5000L。つまり5000円だ。


 これを使えば二人の職業も変更できないだろうか?

 ゲームアイテムはおにぎりの件で、異世界人にも使えることが分かっている。アバターの効果でもそれは証明された。

 だからきっと使えるはず!


「ふ、二人にあった職業に代わりたいとは思わないかい? もしかしたらできるかもしれないんだ」


 強制はしたくない。

 二人が望まないなら、そのままでいいと思う。まぁ苦労はするだろうけど。

 

「……アタシ……本当は弓が得意だったわ。それでよく野鳥を仕留めていたもの」

「私は弓が得意ではなかったです。お父さんがソードマンで、お父さんのようになりたいって思ってこっそり練習をしていました」

「だけど村のみんなが、ソードマンならアタシの方が似合うって」

「私は前衛より、後衛のほうがいいって」


 その村の人の言う通り、職業を選んだ結果がこれだ。


「いつまでもうまく使えない剣なんかより、弓を扱いたいわ!」

「お父さんのように強い剣士になりたいです!」

「うん。じゃあ君たちの願いを、僕が叶えるよ。ただし、レベルとスキルがリセット……えぇっと、今君たちのレベルが2なのが1になって、覚えている技――はないか。とにかくレベルが1になるんだ。それでもいいかい?」


 言ってみて思った。スキルがリセットされても、そもそもスキルはないから関係ない。

 レベルも2が1に下がったって、誤差なんて言えないほど変化はない。

 説明しなくても彼女らも理解したようで、はにかむように笑いながら頷いた。


 万が一転職出来なかったときは、頑張って二人をサポートするさ。そして上位職になって、それも極めて転生すればいい。

【転生チケット:ソードマン】【転生チケット:アーチャー】この2枚を購入。

 すぐにメールボックスへと荷物が届き、それを二人へと手渡した。

 ただ問題は、どうやってこれを使うのかだな。


 ゲームならクリックすればいいんだけど……あ、たぶん僕が使うときもそれでいけるはず。

 けれど二人にはインターフェースはないし、アイテムボックスもない。クリックする場所がそもそもない!


 そう思っていると、二人は手渡したチケットをビリビリと破りはじめた。


「えぇ!? や、破っちゃう? なんで?」

「え? な、なんでって、紙にそう書いてあるもの」

「こ、ここに『破って使用する』と書いてますよ?」


 アーシアが見せた紙の半券には、僕には読めない記号のようなものがあった。

 言葉は通じているけど、文字は違うのか。


「タックさん、変われましたか?」

「あんたじゃないと分からないんだから、早く見てよ」

「あ、うん。今確認するよ」


 二人のステータスをそれぞれ確認すると、



****************************************


 名前:アーシア 種族:獣人 年齢:16

 職業:ソードマン

 レベル:1


****************************************



 ステータスは据え置きで、スキル欄に『剣術マスタリー1』というのが追加されてる!?


「やった! 成功だよアーシアっ」

「本当ですか!」

「ア、アタシは? アタシはどうなの?」

「あ、待って。今見るから」



****************************************


 名前:ルーシア 種族:獣人 年齢:16

 職業:アーチャー

 レベル:1


****************************************



 スキル欄には『ダブルアロー1』とあった。


「ルーシアには攻撃スキルが追加されているよ! 『ダブルアロー』だって!!」

「ほ、本当に! あぁ、嬉しいっ」


 祈る仕草の巫女衣装を着たルーシアは、ちょっと神々しくもあった。

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