第9話

 公式ショップにも下着なんてものは売っていない。

 だけど似たものならある。


 そう。


 水着だ!!


「せ、せっかく服を着て貰ったのに悪いんだけど、これも着けてくれると嬉しいな」


 そう言って手渡したのは、黒いビキニと、白のビキニだ。

 どっちがどれを着用するかは彼女らに任せるとして、水着を手渡し、僕は遺跡の入り口側へと向かう。

 

 課金が出来る&アイテムを購入できるというのは素直に嬉しい。

 ただ問題は僕の職業だ。


 エターナル・ノービス。


 職業の詳細を確認すると、全てのパッシブスキルの習得が可能――と書いてあった。

 攻撃スキルはなく、代わりに他職を真似る『ものまね』スキルがある。


 ものまねってなんだ?

 攻撃スキルを習得できないって、じゃあどうしろってんだ!


 とは思ったものの、僕は元々大魔導士であり、すでに習得済みのスキルは関係ないんだろうな。

 実際MP不足で不発だったとはいえ、使うという動作は出来ていたし。


 それにしても、本当にパッシブスキルだらけだなぁ。

 パッシブスキルはMPを消費せず、常に効果が発揮されるタイプのもので、だいたいが身体能力やステータス向上系のものだ。

 

 転生特典のスキルポイント10も持ったまま。

 とりあえずこれを何かに振っておこう。

 魔術師必須の『魔力向上』はそもそもカンストしているし、詠唱を早くさせる『早口言葉』もカンストだ。

 スキルツリーを見ながら、それまでそこにはなかったスキルの数々に目が止まった。


『HP上昇』『MP上昇』『筋力向上』『剣術マスタリー』etc……。


 そうか。全てのパッシブスキルなんだ。

 他の職業で習得できる全てのパッシブスキルが習得可能なのか!?

 

 MPは今のところ、指輪を使えば必要ない。だけどこの手のスキルは早くにとっておいたほうが、後々差が出る。

 レベルが上がる際に補正効果が付くからな。

 なら――


 僕はスキルポイントを10使って、HPとMPを増やすスキルをそれぞれレベル5まで上げた。

 そのあともメニューを一つ一つ確認していき、使えるかどうかのテストを行った。


 その結果――。


「は、はは。クエストの報告が出来た」


 クエストの報告対象がNPCやオブジェではなく、クエスト画面そのものが報告場所のものについて……何と報告が出来た!

 自動買い取り露店で何週間も前からこつこつ溜め込んだアイテムが、異世界でも使えるなんて。

 ただレベル制限なんかもあるから、今完了できるものを全て報告しまくっても、レベルは12までしか上がらなかった。


 得られたスキルポイントで『HP上昇』と『MP上昇』はカンストさせ、残り2ポイントは残しておく。

 ステータスはとりあえず魔力に全部振っておけばいい。

 これでよしっと。


****************************************


 名前:タック 種族:人族 年齢:18

 職業:エターナル・ノービス

 レベル:12


 HP:847+175 MP:1950+500


 筋力:1+20

 肉体:1

 回避:1

 命中:1

 敏捷:1+10

 魔力:12+25+12

 詠唱:1


****************************************

 


「もう一つレベルが上がれば、これとこれ、あとこれも報告できるようになるな」


 とはいえ、三つ全て報告対象はNPCだ。NPC……存在しているのだろうか。


「タックさ~ん」

「もう戻って来てもいいわよ~」


 呼ばれて左の通路奥へと向かうと、たぶん水着をつけたのであろう二人が待っていた。


「ちょっときついけど、悪くない」

「な、なにもはいていなかったので、とても助かりましたです」

「あ、ありがとう。あんた、人族だけど親切ね」

「タックさんは人族ですが、とても優しい方なのですね」


 ルーシアはそっぽを向いて、アーシアは僕の目を見てそう話す。

 二人とも気に入ってくれたようで、こちらとしても一安心だ。

 ルーシアの巫女服は、袴ではなくミニスカってのがアバターらしい。男プレイヤーに媚びを売ったデザインだ。

 主にネカマが好きそうなヤツ。

 メイド服のほうはまぁ、普通のメイド服だけど。それでも十分かわいい。


 何よりもこの衣装、不思議なことに獣人族が尻尾を通すための細工が施してあった。

 さっきはスカートの内側から尻尾が見えているんだと思っていたけど、どうもそうじゃなかったらしい。


「ここにこうして、ボタンで留めるんですよ」

「下着も同じようになっていたけれど、あんた知らなかったの?」


 背中の生地に切れ込みがあって、そこに尻尾を当ててから腰の部分でボタンを留める。ズボンのチャックが背中側についたような感じだ。

 そういや以前、クラウドがミーナにからかわれてたっけ。


――やだクラウドのズボンって、犬のオムツみたいでかわいい。


 って。

 犬なんて飼ったこともなかったけど、気になって当時検索したっけか。

 確かにそんな感じだ。


 ちょっと狙ったようなアバターではあるけど、あのボロ布みたいな服よりはマシだ。

 これで少しは落ち着ける。主に僕が。


 そうなると今度は空腹に襲われる。

 この世界に来てから何時間か経っている。しかもずっと歩きっぱなしだったんだ、お腹が空いても不思議じゃない。


 アイテムボックスには一応料理アイテムもある。純粋に果物もだ。

 この料理……ひと月も前にミーナから買ったステータスブーストアイテムだけど、食べれるんだろうか……。

 腐ってたり、しないよね?


 逆に食べれて、アイテムの効果が発現しても勿体ないと思うわけで。

 なら、僕にとってあまり役に立たない筋力ステータスを+1させる料理にしよう。


 取り出すのはシャケおにぎり。

 手持ちは99個……なんでこんなに買ったんだろうな。

 あ、そうか。イベントの景品にするつもりだったんだ。

 とりあえずひとり2個ずつにしておこう。


 二人に背を向け一つ取り出し、スッパそうな匂いがないか確かめる。

 うん、スッパそうな匂いはしない。あと、結構温かいな。握りたてって感じがする。

 あとは味……か。


 米粒を一つ口に入れてみるが、変な味もしない。

 炊いたお米って、腐るとねちょってするんだよね。そういう感じもしない。


「タックさん、どうしたんですかかさっきから」

「こそこそと、また宙から何か取り出してたんでしょ?」

「あ、えぇっと……た、食べられるかちょっと不安だったんで、確認していたんだ。でも、たぶん……たぶんだからね、大丈夫そう、かなぁと」


 恐る恐る二人にも取り出したおにぎりを差し出す。

 やっぱり見るのは初めてだよな。

 鼻をひくふくさせておにぎりを凝視する二人の姿は、見ていてとても可愛らしい。


「じゃあ僕が先に食べるよ」


 意を決してぱくりとほおばると、予想以上にお米は美味しく。

 塩加減も抜群だし、シャケの味もしっかりあった。


「おいひい……おいひいよ、これ……」


 その日、僕は見知った異世界で、シャケおにぎりを食べながら泣いてしまった。

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