第8話
「まさか火ダガーがこんなところで活躍するなんて」
F1キーに登録したファイアダブルパワーダガー+8を手に持つと、刃に付与された火がほんのり辺りを照らしてくれた。
もっと早くに気が付けば、暗い森の中でも歩けたのに。
そう思ったけれど、同時に追手に見つかりやすくもなっただろうから結果オーライか。
「その短剣、なぜ光っているの?」
「炎ですか、それ」
「う、うん。火属性のコーティングストーンとパワーのコーティングストーンを錬成しているんだけど……言ってる意味分かる?」
二人は同時に首を左右に振る。
製造を知らないのか、それともコーティングストーンが分からないのか。
地下遺跡へと降りると、通路は正面と左とに別れる。これもゲームと同じだ。
正面へ進むと攻略ダンジョンへと続き、左はクエストを報告するためだけに寄る場所だ。そっち側にはモンスターはいないが……この世界ではどうかな?
左の通路へと進むが、モンスターの姿は見えない。
「たぶん、大丈夫だ。君たちの目で何か見えるかい?」
「いいえ、何もいませんタックさん」
「耳でも敵の気配は分かるわ。ここは安全みたい。今日はここで休むわよ」
ほっ。よかった。どうやら大丈夫なようだ。
一休みできるということで、僕もいろいろやっておきたいことがある。
まず二人の服だ!
彼女らの後ろから歩いていて気付いてしまったんだ。
二人は……ノーパンだ!
ワンピースというよりは、大きいサイズのメンズシャツといったのも着た二人は、お尻から伸びた尻尾のせいで時折裾が捲れ……その、見えたんだ。
お尻が。
とにかくなんでもいい。ガチャで出たアバター装備とかあったよな……えぇっと、お、これだ!
メイド服!
そして――
巫女さん!
問題はどうやって取り出すかだ。この二着は女キャラ専用アバターなので、僕は着れない……はず。
念のためクリックしてみるけど【性別が適合しません】とメッセージが浮かんだ。
じゃあどうするのか。
ゲームではアイテムを手に持つ、なんてことはなかった。装備はクリックするだけだし、そもそもゲーム画面の物を現実で取り出せるわけがない。
それがここでは現実になっちゃったもんだからさぁ大変。
視界に浮かんだアイテムボックスには、欲しい物があるってのになぁ。
これじゃあ宝の持ち腐れだぞ。
手を伸ばせば直ぐそこに――え、手が入った!
アイテムボックスに伸ばした指先が、一度はクリックした際に感じる触れた感覚があって――さらに押し込むと入った!
その指先に布のような物が触れ、手を引き抜くとそこには青紺色の生地と白い生地が。
「タ、タックさん、ど、どこからそれを?」
「あんた、さっきからいったいなんなの!?」
「えっと、い、いろいろありまして。と、とにかくこれ着てよ。もう一着別の服出すから……よっと」
次に出したのは赤と白の巫女衣装。
全種族対応アバターだけど、見た目的には尻尾を通す穴はない。
そういやノーパンなんだから、パンツをはいて欲しいんだけども。
でもMMOで下着なんて、デフォルト装備だからこればっかりはアバターでも売ってないんだよなぁ。
課金アイテムのラインナップを確認しながら、僕はふとあることに気づいた。
「公式ショップが……見れる……だと?」
ネットに繋がっているのか!?
ショップ画面には課金アイテムを購入するのに必要なLポイントがしっかり表示されている。
その額、3,451,000L。345万1千円分だ。
チ、チャージは出来ないんだろうか。
5つの預金通帳に、合わせて15億は入っているはず。
宝くじで当たったお金と、投資で儲けたお金とで悠々自適なオンラインゲームライフを送っていたんだ。
そのお金をチャージできないのか!
試しにチャージポタンを押すと、画面が変わってクレジット決済画面が開いた。
で、出来る。
いやまだ分からない。
ササっと操作して、僕のカードでの限度額である100万円分の決済をやってみると……。
「できた……」
4,451,000Lになった。
なんか今、未来が明るくなった気がしたよ。
「タックさん、着てみましたが……ど、どうですか?」
「な、なんだか見たことのないデザインだけど、これ、おかしくないの?」
「ん?」
呼ばれて振り向くと、いつの間にやらアバター衣装に着替えた二人がいて……。
アーシアがメイドさんに。
ルーシアが巫女さんになっていた。
それぞれ丈の短いスカートから覗く尻尾が、忙しなく動いているのが見え、そのたびに僕の心臓はバックバックになりました。
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