第7話

「さっきのは姿隠しのマントって言って、動かない喋らないを守っている間は、他人から見えなくなる装備なんだ」


 マントを脱いで彼女らに手渡すと、二人は不思議そうにそれを見ながら、お互い羽織って確認したりしていた。

 装備品は一度身に着ければ、あとは普通に脱ぎ着できるんだな。


 追手が向かったのとは別の、道なき森の中を進むこと数十分。

 だんだんと辺りが暗くなり始める。


「どこかで休める場所を探そう。村とか町は――行けないよね」

「あ、当たり前よ!」

「どこか身を隠せる場所を探さなきゃです」


 森を歩く間にも陽は傾き、森の中では既に薄暗くなっていた。


「ふ、二人はこんな暗い中でも平気なの?」


 そう尋ねると、アーシアが振り向いた。


「はい」


 そう返事する彼女の眼は、キラリと光って見える。

 あ、なるほどね。夜行性なのか。


 って、ゲームには種族得点で夜目とかなかったし!

 いや、ゲームだからそもそも夜目とかなかったよ。まず真っ暗なフィールドがなかったし、夜でもモニター越しではちゃんと見えていた。

 

「タックさん、手を繋ぎますか?」

「え? ど、どど、どうして急に!?」

「タックさんは人族です。暗くなると、見えなくなるでしょう?」

「そ、そうだけど。で、でも女の子と手をつ、繋ぐなんて」


 緊張するし、恥ずかしい。


「あんたさっき、アタシたちの手を握って引っ張ったじゃない」

「え? そ、そういえば?」


 姿隠しのマントを使うとき、二人の手を引いて移動した。確かに握っていた。

 いやでもあれば咄嗟だったし!


「こけると大変です。手、繋ぎましょう?」


 薄暗くなった森の中で、金髪狐美少女にそう言われて嫌だと言える男もいない。

 体が火照るのを感じながら、おずおずと彼女に手を伸ばした。

 その手をアーシアが優しく握り、にっこりとほほ笑む。


 あぁ……柔らかい。すべすべだ。

 何より温かい。


 人って、こんなに温かいんだなぁ。


 やがて真っ暗になったころ、二人は何かを見つけたようだ。


「あそこにする?」

「でも、大丈夫かなぁ?」

「そう言ってもあそこしかないでしょ」

「そうだけど……タックさん、この先に遺跡のような物が見えるのです」

「遺跡?」


 遺跡……そもそもここがどこなのかも分からない。

 そうだ。マップで調べれば何か分かるんじゃ。


 二人には立ち止まって貰い、インターフェース画面を開く。

 おぉ、このホロブラムモニター、光ってるから暗がりでもよく見えるぞ。


 システムメニューからクエストアイコンを選び、サブウィンドウで現れた一覧から地図を選択。

 モニター越しに見ていた地図と、まったく同じものが視界に現れた。


 現在地はイリスの森の中。

 転生NPCがいたあの森だ。

 ゲームだと駆け抜けるのに3分もあれば抜けられたが、どの位歩いただろう。

 体感だけど、2時間以上は経ったんじゃないかな。

 さすがにそこはゲーム仕様じゃないんだな。


 この森にはイーリスの遺跡があったけれど……今の現在地のすぐ目の前だ。

 イーリスの遺跡はレベル25前後の狩場として人気の場所だったから、僕も何度も潜っている。


「よし、行こう。イーリスの遺跡なら何度も入っているし、道も覚えているから大丈夫だ」


 二人は顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げるが。

 やがて彼女らは歩き出し、僕はアーシアに手を引かれついて行った。


 森の木々がぽっかりと開けた場所へと出ると、月明かりの下に遺跡の姿が浮かび上がる。


「なんか思っていたより……ボロボロだ」


 古代ギリシャの遺跡によく似た建造物が三つ。その一つに地下へと通じる階段がある。

 だけどゲーム画面で見ていた遺跡より、柱は苔むしているし、立っているソレの数も少ない。

 なんか風化が進んだというか、とにかくボロボロ感が半端ない。


 確かこの遺跡は、500年ぐらい前の物だって設定だったような。


「あんた、中に入ったことがあるんでしょ?」

「あ、う、うん。大丈夫、行こう」


 地下遺跡へと続く階段は、ここから一番奥の建造物にある。

 ゲームと同じなら……あった!


 地図は合っているし、遺跡への入り口もゲームと同じ。

 ここは紛れもなく『LOST Online』の世界であり、だけどゲームではない現実の異世界だ。

 どうしてこうなったのか――と考えるよりも、ここでどう生きていくかを考えるべきなんだろうな。


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