第2話

「ゾンビにしてはお肌が綺麗」

「きっと成り立てで新鮮だからよ」


 新鮮なゾンビ……。

 ぶるぶるっと顔を左右に振り、想像したものを掻き消す。


 冷静になろう。

 まずここはどこだ? 明らかに僕が住んでいたマンションではない。

 僕は地面に掘られた浅い穴の中にいて、どうやら死んだと勘違いされて埋められていた?

 じゃあ地震でマンションが崩れて、掘り起こされてどこかにってこと?


 それはないだろう。

 田舎のマンションだとはいえ、あれ、まだ築9年だし、そもそも倒壊してたら生きてないだろう。

 それこそ本当に死んでて……たぶんミンチになっているはず。


 だいたい目の前にいるこの双子っぽい子たち。

 頭には狐の耳があるし、どうやらさっきから後ろでちらちら見えてるのは、まさに尻尾だ。

 警戒している合図なのか、ちょっと毛が逆立っているように見える。


 耳と尻尾だけじゃない。

 片や金髪オッドアイ。もう片方は銀髪オッドアイ。

 どうみても現実離れしている。


「もしかして、『LOST Online』のプレイ画面?」


 と思って自分を見てみるけど、モニター越しにゲーム画面を見ているわけではないらしい。

 むしろこの体、僕……いや、誰だ?


 立ち上がって確かめてみるが、にしては体が引き締まっている気がする。


「ゾ、ゾンビが立ったです!」

「そ、そりゃあゾンビだもの。立つに決まっているわよっ」

「い、いや待って。僕はゾンビじゃないから、生きてるからっ」

「「ゾンビが喋った!?」」


 二人の尻尾がぶわっと広がり、お互い肩を抱き合って身を竦める。

 いや、ゾンビじゃないんだってば。


 とにかく整理しよう。

 

 1年ぶりの大型アップデートで、転生システムが実装された。

 専用のNPCがどこに設置されるのかの情報もなく、あたりをつけてメンテ前にログアウトした。

 読み通り、僕がログインした目の前に見慣れないNPCがいて、直ぐにクリックしてイベントを開始。

 装備はいったん全て外し、そしてレベルとステータスがリセットされ……。


「どの職業に転生するか選んでいる間に地震が来て――」


 そのまま視界がブラックアウト。

 なんか一瞬だけ痛みが走った気がするけども、まさか僕……。


「僕、死んだのか!?」

「ひうぅん、ゾンビが何か言ってますぅ~」

「死んだからゾンビなのよ! あんた分からないの?」

「いや、生きてるって!」


 いや、死んでいるのか?

 あぁ、もう!

 頭の中がぐるぐるしてて、訳分からないよ!


 とにかくここはマンションの中ではない。それにたぶん、地球でもない。

 周りの景色からすると、ここは森の中だろう。

 だけどその景色は現実離れしていて、そう……『LOST Online』にそっくりだ。


 グラフィックに力を入れた幻想的な背景。

 葉っぱの一枚一枚が丁寧に描きこまれた景色は、MMO業界でも高い評価がある。

 その景色が今、モニター越しではなく、直に目にしていた。


 ゲームに酷似した世界に生まれ変わった……とか?


「はは。そういや転生システム実装だったもんな。まさかこういうオチがあるなんて――」


 って、そんな訳あるかーい!


「あの、ところでお二人さん。さっきから僕のこと、棒で突くのやめてくれないかな」


 銀髪の狐少女が木の枝を持って、僕の体をあちこち突いていた。もう一人の金髪狐少女は、銀髪の子の後ろに隠れてチラチラと僕を見ている。

 だけど突かれているというのが分かるのは、触覚があるということ。

 夢オチも一瞬頭を過ったけれど、どうやら現実のようだ。


「あ、あんた。本当に生きているの?」

「脈でも計る?」


 そう言うと、双子は顔を見合わせ同時に首をこてんと傾げる。

 脈の概念がないのかな。

 なら心臓――う、動いてるよな?

 不安になって自分の胸に手を当てると、どくん、どくんとちゃんと動いていた。


「心臓が動いているか、確かめてみる?」


 穴から出ると、二人は一層警戒して威嚇するように木の枝を構える。

 慌てて何もしないと意思表示するために両手を上げ笑って見せた。

 けど、笑顔なんて他人に見せるのは何年振りだろう。

 パソコンの前ではよく笑ったりするが、その笑顔がちゃんと笑っているのかは知らない。


 いや待て。

 こうして面と向かって人と会話するなんて……何年ぶ……り……。


「うぐっ」

「なっ、なによあんた! 急に気持ち悪そうにしてっ」

「やっぱりゾンビですか? これから腐っていくですか?」

「ち、ちが……。ひ、人と話をする……って思っただけで、気持ち、悪い」

「「え……」」

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