異世界に転移したけど僕だけゲーム仕様~公式ショップが使えてチャージし放題!つまりこれは無双確定!?~

夢・風魔

1章:MMOをプレイしていたはずが異世界転移。

第1話

「読み通り」


 中央に置いたモニターを見つめ、思わず声を漏らした。

 僕――もちろんゲーム内のキャラだけど――の目の前には、メンテ前にはいなかったNPCが立っている。


 深い森の中、怪しげな遺跡のあるこのマップで、僕のほかには誰もいない。


「くく。一番乗りゲットだぜ」


 さぁて、じゃあ転生しますかね。


 MMORPG『Lost Online』の、1年ぶりとなる大型アップデート。

 何が楽しみかって、そりゃあ転生ですよ、転生。

 

 これまでのスキルを所持したままレベルとステータスをリセットし、まったく別の職業でプレイが可能になるのがこの転生システムだ。

 ただし転生できるのは、下級職のレベルを99のカンストまで育て、そこから上位職のレベルも99カンストさせたキャラクターに限る。

 僕は魔術師から魔導士にとレベルをカンストさせ、この時を八カ月待った。

 長かった……やっとこの日が来たんだ。 


【メーナ:うわぁん。転生NPCここじゃなかった~】

【クラウド:オシアの町にもいなかった】

【バラモン:ジータもいない。タックは?】

【チェリー:タック~ん】


 チャットウィンドウに流れるギルメンの会話。

 呼ばれても今は返事ができないんだよなぁ。

 すでに転生NPCをクリックしてイベントが始まっているからさ。


【アレス:返事がないようだ。ただのしかばn】

【ミーナ:もしかして大当たり? 転生NPCいたのタックん!?】


 いる!

 そうチャットを打ちたいが、今はそれどころじゃない。


 既存職業以外に、今回のアップデートで追加された職業もある。

 その中から第二の人生を選ばなければならない。

 てっきりここに『賢者』があると思ったんだけど、出てないんだよなぁ。

 ってことは……さらに上位の派生職業があったりするのか?


【クラウド:タックタックにしてやんよ】


 そうだと仮定してだ。何を選択すれば賢者が解放されるのか……しっかり考えなきゃな。

 今回新しく追加された職業は『竜騎士』『暗黒騎士』『ハイプリースト』『ビショップ』etc、etc……ん?

 なんだ、このエターナル・ノービスって。

 ノービスって初心者って意味だろ?

 ずっと永遠に初心者?


 縁起でもない。絶対こんなの選ぶもんか。


【チェリー:タック~ん。転生したら、お祝いに別垢の製造キャラで作った武器あげるね~】

【チェリー:すごいの出来たんだよ。チェリー酒のライトニングハイクオリティクワドロプルクリティカルダガー+10】


「ぶっ。なんか無駄にハイレベルな効果付いてるのに、ダガーとか嘘だろ」


 思わずモニターに向かってつっこんでしまった。

 ライトニングは雷属性は付与されているという証。

 ハイクオリティは全ての面で同クラスのものと比べて、性能が優れているという意味。

 クワドロプルは四で、クリティカル5%アップの石が四つセットされているってこと。合計で20%アップだ。

 そして武器は短剣の中でも攻撃力の低いダガーだけども、その攻撃力を補正する精錬が+10までされている。

 微妙なのに効果が凄い……。


 でもなぁ、僕って魔法職なんですけど。まぁダガーは全職業で装備可能武器だけどさ。


【チェリー:だから転生後のレベル上げクエストアイテム、余ったら売ってぇ~】

【アレス:オレも欲しい】

【クラウド:ノノ】

【ミーナ:ノ】

【バラモン:の】


 分かってるって。

 大丈夫。自動買い取り露店出してたら、想定外の数が集まってどうしようかと思ってたところだ。

 みんなに分配するから、もうちょっと待っててくれ。


 とりあえず賢者なら……今の魔導士とは違う系統の魔法職をカンストさせれば解放されるんじゃないかな。


 マウスを操作して魔法職の項目に矢印を移動――。


【ミーナ:揺れてる!】

【アレス:またか。今日多くね? って、ちょ、デカッ】


 地震?

 確かに今朝も揺れたし、昨日も揺れた。

 まぁ地震大国日本じゃ、連続で揺れたからって――お……おおぉ。


「ヤバイ。ヤバイヤバイ! めちゃくちゃ揺れ大きい! ヤバイよ、早く職業選ばなきゃ!」


 ハイ・プリーストか、ビショップか。それとも召喚術師か? 精霊使いの可能性も。

 早く、停電する前に早く!


「えぇい、ビショップだ!」


 大きく揺れる地震の中、マウスを動かしてクリックしたのは――


「あ……エターナ――」


 エターナル。

 そう言い終える前に、視界がブラックアウト。


 一瞬、衝撃を受けた気もするが、今は息苦しい。

 息が……もしかして地震で天井崩れたとか?

 それで生き埋めになっているとか?


 マズい。このままじゃあ本当に死んでしまう!?


 必死にもがくと、思ったほど僕の上に覆いかぶさった物は重くはなく、あっさり起き上がることができた。


「ぷはぁーっ、ぷはぁーっ。つ、土?」


 起き上がったに拍子に、顔や体から落ちたのはただの土。

 ……え?

 なんで土?


「ひぅっ。ルーシア、死体が生き返ったのっ」

「はぅっ。だ、だだ、大丈夫よアーシア。た、ただのゾンビだから」


 ゾ、ゾンビ?

 なにわけの分からないことを言っているんだ?

 そう思って声のした方を見ると、そこには頭のてっぺんに狐のような大きな耳のある、よく似た顔の女の子が二人立っていた。



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