106.試し焼き 四

「えぇ。つつがなく。少し屋台設備の関係でコードリール……、コンセントが足りなかったくらいです。こちらも順調そうですね?」


 四谷さんは背後の屋台に目を向ける。そこには千佳と、フードショーケース内にドドンと積まれた玉子串。


「御覧のとおり、きちんと形になりました! そうだ、おひとつ食べてってください!」


 小湊さんのジェスチャーを受け、千佳はさっそくケースから玉子串を取り出した。一本、二本、三本、四本と。それぞれ味の違う四つの山から一本ずつ、器用に指と指の間に挟んで一度に取り出すと、よどみない手つきで舟皿ふなざらに移した。


「そんな、気を使っていただかなくとも」


 舟皿はたこやきの出店でよく使われているそれと同じモノだ。紙コップじゃえないと、駅前にある業務用スーパーまで足をのばした小湊さんが見つけてきたものだ。

 おかげさまで、玉子串のを舟皿は遺憾なく際立たせ、四谷さんの視線をクギ付けにしている。


「いえ、そんなワケにはいきません。それに元々あのバ、こほん。須藤君が来たら試食会を開く予定でしたから。ね、相楽さん?」


「はい。私も食べてみていただけると助かるのですが……、受け取っていただけますか?」


 千佳が差し出した舟皿には照り輝く玉子串。こうまでお願いされて断るのは、それはそれで失礼だと思ったのだろう。


「そう、ですか……。でしたらありがたく、いただきますね」


 四谷さんはまだ遠慮がちながらも頷いて、その舟皿を受け取った。

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