104.試し焼き 二

 あぁだこうだと話しつつ、玉子串を焼き上げていく。

 四種類、各種十本ずつをフードショーケースに積んだところで手を止めて、三人で見栄えを確かめる。

 黄金色の太巻きが積まれている光景は圧巻の一言で、一種の芸術品を思わせる美しさがあった。


「うんうん、良い感じ。これぞえってヤツね!」


「映え? ともかく、とっても人目を惹く見栄みばえです」


「でしょでしょ? ボリューミーに見えるけど、一本あたりでみれば大したことないしねー」


 屋台の表に回った小湊さんと千佳はめいめいに感想を言い合っている。

 俺はレジの前に立ち、そんな二人の様子を眺めていた。


「香りも……、こっちまで広がってますね」


 千佳は屋台から距離を取ると、すんすんと鼻をならす。

 ガスコンロの前では当たり前だが、あんなところまで香りが広がってるのか。


「本当ね。明日はいろんな屋台の香りが混ざるだろうけど、この甘い香りで客を振り向かせることはできそうね」


 甘い香りは出汁だしのそれだ。焼き鳥やベビーカステラもたいがい強い匂いだが、この玉子串のそれも引けをとらないほどだ。


「ええ。それでどの屋台からだろうって足を向けてくれて」


「釣られた先にはライブクッキング。相楽さんの腕前にみんなクギ付けよ!」


「そんなクギ付けだなんて……、ただ作ってるだけですよ?」


「いいえ、謙遜することないわ。ライブクッキングって考えも大成功ね! そして待ち構えたるはででんと鎮座ましまする玉子串ピラミッドが映えるフードショーケース! 一本二百円でリーズナブル! かき氷の食べ過ぎでお腹が冷えて、泣き出しそうなお子様も! これを食べればすぐに機嫌が戻るわよ! これで売れないワケないわ!」


 絵にかいた餅が現実に飛び出してきた。その完成度に小湊さんは悦に入っているし、千佳も気を引き締めなおしたようだ。


「おや、これはこれは……、見事ですね」

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