98.私たちの屋台 二

「気づかなかったわ……」


 てっきり特注で屋台カバー作ったのかと思っていた。言われて目を凝らしてみたが、近所の屋台のそれと比べても違和感はない。

 まかせっきりで悪いと思っていたが、むしろこの手腕だ。俺や須藤がいては邪魔なだけだったかもしれない。


「というわけでっ! これが私たちの屋台ですっ。今回、この屋台の経費はかなりお安くすることができました。四谷さんはもとより、機材を貸してくれたり口利きしてくれた団員さん方に感謝しながら使いましょうっ」


「おう、腕によりをかけて作るぜ!」


「お前はまずもたつかないようにだな……」


「心配すんなよ祐司。ほら、俺ってば本番に強いタイプだからさっ」


 ドンと胸を叩く須藤に思わずしかめ面を返してしまう。まったく、その自信はどこから来るのか。


「ふふ、私は信じてるから」


 小湊さんは上機嫌だ。まぁ小湊さんとしては、あの空気を経てもなお普通に話せている今があるだけで嬉しいのだろう。

 前の時はギクシャクしてる期間がそこそこあったしな。だがそれとこれは別、正直に言って須藤の腕には不安しかない。


「本当に大丈夫か?」


「あぁ、大船に乗ったつもりでいろ!」


「……」


 これまでの練習で全員、味を揃えるまでは出来ていた。出来てはいたのだが、もともと須藤は家で料理する習慣がなかったらしい。

 玉子串はその美しい黄金色の巻きが目を惹く一品だが、須藤はこの巻きがちょっとでも狂うと上手く修正できず、グズグズにしてしまうことが今でもあった。


「なぁ、これって作ってるとこ真正面から見えるんだよな」


「えぇそうよ。ってかどう見たってそうでしょ。あ、ちゃんとその上にライト用意してるから、手元が照らされる感じでめっちゃかっこいいと思うっ」


 ……となるとやはり変なところは見せられない。須藤には作るよりも呼び込みやレジをしてもらった方がいいかもしれない。


「ところでなんだけど篠森、相楽さんはどこ行ったの? 用事でもあった?」

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