97.私たちの屋台 一

 話は大きく脱線してしまっていたが、コホンと一つ咳払い、屋台の方に舵を戻した。


「え~っと、それでなんだっけ。あぁそう、まぁ四谷さんと一緒に、これまで屋台を出してた人のところへ挨拶周りしてきたのよ」


 いつの間に挨拶周りなんて行ったんだ。


「須藤も行ったのか?」


「いや、俺も知らねぇ」


須藤にも言ってなかったのか。


「え、誘ったわよ?」


「え、いつ?」


なにも心アタリがないらしい。須藤はキョトンと見返した、


「バイトで無理って言ってたじゃない」


「あー、あのLIMEライムってそういう意味だったのか! あぁ、そうだそうだ、確かにあったわ」


もうシフトが組まれていて、須藤も深く考えずに断ったのだろう。

それで小湊さんは、そのまま一人で動き今日に至る、ということか。


「最初はもう、どんな祭りにんが出てくるんだってビクビクしてたけど……。心配して損しちゃったよ」


 そもそも、今回の減らした屋台というのは青年団が出すハズだった屋台だ。だからその挨拶周りも青年団の団員相手ということになる。だから当然俺とも顔見知りということで。


「声かけてくれりゃ良かったのに。俺はもう顔なじみしかいないから」


 小湊さんがいくら体育館によく来て手伝いをしたといっても、そこで顔を合わせているのは和太鼓演舞の団員だけだ。なのでそれ以外、警備などが担当の団員とは一度も面識がなく、いきなり挨拶に行っても、町の外の人がなぜ? と不思議に思われたことだろう。


「心配ありがと。でも、四谷さんがしっかりフォローしてくれたから全然平気だったよ! まぁそれで挨拶周りしてたらさ、『眠らせとくのはもったいないから』ってそこにあるガスコンロ貸してくれたの。ショーケースの方も、『おう、頑張れよ!』って知り合いのレンタル用具店に話つけてくれたそうでさ。めっちゃ安くしてくれて、しかもアレ、下ろしたばかりの新品らしいのよ。四谷さんもニッコリのすっごいお得さ加減だったわ」


「そうか、それで安く上げられたのか」


 借り物に、身内価格の組み合わせとくればそれは安くなるだろう。

 ショーケースを撫でる小湊さんはそれはもうホクホク顔で嬉しそうだ。


「えぇ、だから実際はフライパンとか包丁とかと、奥のプロパンくらいじゃないかな? ちなみにひさしの玉子串の文字は、ネットでプリントシール頼んで自分で貼ってみました! うまく貼れたと思わない?」

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