89.見立て 三

「いやないから!」


 どっからどうしてそうなった?!


「なぁんだ、私てっきり当て馬にされちゃうのかと思っちゃったじゃない」


 ほっと胸をなで下ろす小湊さんだけど、それをしたいのはこっちの方だ。


「っつかよくそんなえげつないこと思いつくな……」


 その発想にさらっと至ることそれ自体が恐ろしい。


「え、これくらい普通でしょ」


 どんな世界に身を置いてんだ……。


「俺には考えつきもしなかったわ……」


「まぁ、アンタがマジでそれ言ってきてたら私ドン引きだけどね」


 俺だってドン引きだよ! ってかもうすでに小湊さんの黒い部分に引いてるまである。


「もう、そんな顔しなくていいから。さってと、そんじゃまぁ、こっちじゃないとしたら……。アンタの好きなようにやればいいんじゃない?」


 ? どういうことだ? ……好きなように?


「だからそんな眉間にシワ寄せて……。さっき自分で言ってたじゃん、都合が良すぎる、って。それでまだその真相? ってやつが信じきれてない、って」


「それが?」


「もう決めてんでしょ、アンタ?」


「……」


「はぁ。どうせ無自覚なんだろうから言ってあげるわ。アンタがね、今こうして私のところに来たのは相楽さんの態度にショックを受けたからとか、ないがしろにされたからとか、ましてや悩んでいるからなんかじゃない」


 途端にまとう空気を一変させた小湊さんは、眼光するどくすくめんとばかりの不可視な冷気でこちらをとらえ、


「浮かれてんのよ、アンタ」


 俺を、ぞくりと背筋が震えるような感覚におとしいれた。

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