88.見立て 二

「そのさ、ついさっきなんだけど……。千佳から、小湊さんを祭りに誘うように言われて……、そのまま背中押されて行ったんだ」


 きちんと話したい、話さなければという想いはあった。けれどそれが変に空回りして、おつかいを頼まれた子供みたいなたどたどしさになっていた。

 それでも小湊さんは急かすでもなく茶化すでもなく、こちらが話せるまで待ってくれていて。


「ようはその、ショックだったんだよ。こっちとしてはデート、っていうか男らしいところをみせようと思って、エスコートしたりアプローチしたつもりだったのに、それが全然、その、意識されてないっていうか、あの日のことが分かって、でもそれも自信ないっていうか」


 とりとめもない心情を、ただ吐露とろするしかできない今の俺には男らしさなど欠片もありはしないだろう。けれど小湊さんは馬鹿にするでもなく、笑わずにそっと聞いてくれている。そのことがただ嬉しい。


「ちなみにさ、その事故の日の真相、っての? 見つけたってことだけど、それアタシには話せないことだったりする?」


 話せない、という内容じゃないけれど。なんというか。


「あんまり現実感がなくてさ。これだっ、ていう気はするけれど、信じきれないっていうか」


「どうして?」


「あまりに都合が良すぎて……。前に言ってたよな、ガキくさいって? その、笑えてくる、っていうか、そういうヤツで」


 こちらとしては苦笑いするしかない。


「ふぅん……。要は、私に話すことはいいけど、もしそれが後で違ってた、ってなったときが恥ずかしいから話せない、と」


「まぁ……、な」


 なにを言われなくても分かっている。こちらが聞いてもらっている立場で、どうやったってが悪いのは。

 だからどうしてもと言われたら話さないわけにはいかないだろうが、できれば深堀りは避けてもらいたいところだった。


「ま、いいわ。それは全部終わったあとで聞くから。それで?」


 助かった。思わずほっと息を吐き、知らず強張こわばっていた体から力が抜けるのを感じた。

 ほんとうに、この男勝りな性格には助けられてばかりだ。こうして話を聞いてもらうだけでもかなり気は楽になった。

 けれど、まだそれでも芯みたいなものが喉奥に突っかかっていて、取り除けずにある。

 この正体がなんなのか分からず、それが知りたかった。


「そういうわけで、どうだろう?」


 男らしさどころか、話すごとにどんどん女々めめしくなっていっているのは百も承知で聞いた。

 小湊さんならば、こうやってウジウジとしてしまう原因すらもう見抜いていることだろう。そしてそれをはっきりと突きつけて……、いや、伝えてくれて、指針を見出してくれるに違いない。


「ぇ、普通にだけど?」


「え……」


 嫌、ってなんだ? ……流石に女々しすぎただろうか?


「だってアンタ、あたしをダシにしてヤキモチかせようって腹積はらづもりでしょ? そりゃ私は可愛くて? 器量良しで近くにある手ごろな物件かもしれないけれど? それにしたって相楽さんに悪いわー」


 ないない、と手を振る小湊さんは、乾いた笑いでどこか遠くに目をやった。


「……?」


 一体なんの話だろうか?


「あれ違った? 夏祭り、私とデートしてる姿を見せつけて、相楽さんをきつけようって話でしょ?」

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