90.見立て 四

「浮かれてる? 俺が?」


「そうよ」


 こんな、モヤモヤとしたこの気持ちが浮かれてるっていうのか? 俄かには納得できないが、そう言われるということはそうなのだろう。


「参考までに、どういうところが浮かれてるように見える?」


「う~ん、そうねぇ……。たとえば、すんなりと相楽さんの言うことを聞いたこと」


「すんなりと?」


 内心かなり抵抗があったことだが、今は聞きに徹しよう。


「いつものアンタなら、あぁだこうだ理由をつけたりするんじゃないの? それで喧嘩……まではいかないだろうけど、怒ったり、しょげたりしながら私のところに来てるはずよ。なのに私のとこにきたアンタは、ふわふわしてた」


「ふわふわ?」


「まぁまぁ、あくまで私の印象だからそこは気にしないで。とにかく私にはアンタが、やけにすんなりと言うこと聞いたな、ってことなの」


「それがどうして浮かれてるって言える?」


「多分、アンタはもう満足してるのよ」


 哲学的な話だろうか? 小湊さんが言っていることの意味がよく分からない。


「きっとね、アンタはその真相ってやつが分かった時点で満足したの、だから……今のアンタは、上手く付き合えようがフラれようが、そこのところはどうだっていいって思ってるでしょ」


 ……。


「答えは二の次として、告白できたら十分だって思ってない? しかもその告り方ってのがどうせガキくさいことなんでしょ」


 カラカラと笑いながらストレートにけなしてくる小湊さんに、だがなにも言い返せなかった。


「悪いかよ……」


 確かに小湊さんの言う通り、今の俺は告白出来たら十分だと思っていた。

 まんま図星を突かれた格好で、どこか頭の片隅では、ぐぅの音も出ないとはこのことかと冷静に突っ込みをいれている自分がいた。


「くふふ。悪いとは言ってないわよ。ただ、アンタ自身が受け止め切れてるかどうかは話が別だけど。深層心理で進歩がないとか成長してないとか自分で自分を責めてるんじゃないの?」


 その言葉がすとんと胸に落ち、視界がクリアに開けた気がした。


「ガキくさくったっていいじゃない。それもひとつの恋ってやつよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る