64.ここだけの話 一

 出店計画書がまとまったのは、それから二時間後のことだった。

 早速それを見てもらおうと四谷さんに連絡をとった小湊さんは、ちょうど体育館で練習中だと聞いて千佳と二人で向かっていった。

 そして小湊さんの命令で、俺達は神社に向かわされた。


「なぁ、ちょっと聞きてぇんだけどよ……」


「あぁ」


 誰もいない境内は、だだっぴろいだけでなにも楽しいものはない。昼ひなか、セミの鳴き声だけが青空に吸い込まれている。


「小湊さん……、可愛かったよな」


「……」


「小悪魔っていうかさ、もう反則じゃね、あの可愛さ……。駄目だ、誰かに気づかれる前に取り締まらなきゃっ!」


「……」


 目が真剣マジだ。やべぇな。


「もうお前には見られてたから話すけどさ、駅の待合所でこう、膝枕っての? 正直、あれはマズいな。もう、こう、なんつーかさ、……やわかった」


 ここにきて気が緩んだのだろう、にへらっとした表情が最高に気持ち悪い。それになんだその手つき、なにをワキワキとんでんだ?


「たいがいにしとけよ」


 やめろとは言わない。というか小湊さんもそのつもりだっただろうし、須藤のこの浮かれ具合を見るに大成功だったに違いないんだ。


「だってさぁ~、膝枕だぜ? ひ・ざ・ま・く・ら! お前だっていつも相楽さんにやらせてんだろ? 俺さ、今までずっとお前のことねたんでたけどよ、まる気持ちってーの? それも分かるわ……」


「やらせてないし嵌まってもねぇよ」


 須藤は俺をどういう人間だと思ってるんだ? 少なくとも自分では須藤よりマシだと思っているが……。というか思いたい。


「ともかくありがとよ、祐司。こうして会えてんのも、お前が太鼓のそれに誘ってくれたからだからな、まじでありがとう!」


「あー、まだ喜ぶのは早いんじゃないか?」


「どういう意味だよ?」


「今で満足か?」


「……満足ってか、満足しなきゃ、って思うけどさ」


「けど?」


 ここにきて何を急に躊躇ってんだ?


「アレかな、俺、小湊さんに嫌われてない、よな?」


「嫌われてたら膝枕以前の問題だろうが」


「かわかわれてるだけって気も」


「それはあるだろうけど」


「あるんだ?!」


「でも、嫌われてないのは確実だ」


「まだ、脈あると思うか?」


「俺にはそう見えたけど」


「そうか?! その、俺、まだ諦めなくてもいいのかな?」


 いいもなにも、小湊さんは再アタックさせることを狙ってるしな。


「決めた! 俺、頑張るわっ!」


「おう、頑張れ?」


 なにをどう頑張るかは知らないが、須藤さえ告ることが出来れば後はもう成功は約束されている。

 万が一、その頑張りが空回りして愛想を尽かされたとしてもそれはそれ、あとは野となれ山となれだ。


「うっし、それじゃ決まったことだし神社の調査、始めっか!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る