61.玉子串 一

「「玉子串?」」


 小湊さんと須藤の声がぴったりと重なった。小湊さんは気にしてないが、須藤は照れくさそうに頬を掻いた。


「あれ、知りませんか?」


「なにそれ、ゆで卵の串刺し?」


「そんなんがあるのか?」


 二人とも本当に知らないらしい。

 詰め寄られている千佳の代わりに答える。


「ゆで卵じゃなくて、それ自体は普通の厚焼き玉子なんだよ。それに串を刺して、食べ歩きできるようにしたのが玉子串」


 答えながら地図に目を向ける。確かに今のところ出店予定の屋台には、玉子串を出している店はなかった。


「えっと、これなら厚焼き玉子を焼くだけですし、作るのも簡単かなと思いまして」


 ぽんと手を合わせ首を傾げる。提案してみたはいいものの、あまり自信がないようだ。


「ん~、玉子串ねぇ……、いまいち想像がつかないわ」


「玉子焼きってなら俺にも作れそうだけどよ、どう言ったところで玉子だぞ? そんなん売れるのか?」


 ま、二人にとっては今初めて知ったばかりの料理だ、上手くイメージできなくて心配な気持ちも分かる。


「売れるかと聞かれたら……どうなんでしょう」


 訝しむ声に千佳の声も小さくなる。


「ねぇ、篠森的には玉子串ってどうなの?」


「ん、俺か? 俺は玉子串に賛成。ってか絶対売れると思う」


 そう答えると、小湊さんが小さな笑みを浮かべた。


「お、大層な自信ね。その理由を説明してくれる?」


「理由か……。そうだ、小湊さんも須藤も、玉子串って食べたことないんだよな?」


「? えぇ、食べたことないけど」


「厚焼き玉子だろ? 味の想像くらいはつくぞ」


 まぁ小湊さんもあまり料理はしないらしいし、そんなものだよな。


「それがどうしたの?」


「あぁ、論より証拠っていうだろ?」


 千佳がそっと立ち上がる。どうやら俺の意図を察したらしい。


「ということは?」


 座卓に二人を残し、俺も千佳に並んで台所に立つ。


「材料あるし、ぱぱっと作るから見とけ」


 幸い、冷蔵庫にはパックで買ってきたままの玉子があった。


「祐司さん、チーズとネギと鶏むね肉と、それから……。プレーンもいきましょう」


「四つ焼くのか?」


「焼くときに上下で具材を分けますから二つ分で」


「わかった、それじゃ八個割っとくわ」


 厚焼きを作るには、一個や二個じゃ数が足りない。一つ分を四個として、ボウルにどんどん割っていく。その間に千佳は玉子焼き用の四角型のフライパンに油をひき、それぞれの具材を切り分ける。

 代わる代わる立ち位置を変え、トントントンと準備していく。……告白をなかったことにされたばかりでも、こうして息が合ってしまうのだから幼なじみとはごうが深い。

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