36.練習具合 二

 ゲンジさんの後ろ姿を見送ると、その先に須藤と小湊さんがいた。


「ついさきほどまで小湊さんが一人で打ってたんですよ」


 今は青年団の四谷よつやさんが太鼓の正面でバチを握っており、二人が左右で囲むようにしている。二人も手にバチを持っているところを見ると、四谷さんが見本として先に叩き、そのリズムに合わせて二人が太鼓を続けて叩く、という手ほどきを受けているようだ。


 ぱっと見た感じでは小湊さんのほうがテンポよく叩けているか。須藤はリズム感がないわけではないが、太鼓に慣れておらず、おっかなびっくりな様子。


「……いい感じだな」


 腰が引けている須藤に対し、小湊さんがなにやら喝を飛ばしたようだ。四谷さんがフォローに入り、二人羽織のようにして須藤にレクチャーする。

 息ぴったりとはいえないが、須藤と小湊さんの間にはぎくしゃくとした空気は漂っておらず、それこそ自然体で話せているように見える。

 本当に良かった。

 そこにゲンジさんが加わっていき、小湊さんのレクチャーについた。もうあちらは何の心配もないだろう。


「祐司さん、祐司さん」


「どうかしたか?」


「ちょっとお渡ししたいものがありまして……。ほら、向こうの二人に見つからないように、こそッと抜けますよ」

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