37.思いつき 一

 千佳に促されて体育館を後にする。

 練習が再開した今、俺達が抜けることはなんら問題がない。というか、サポーターである俺達の休憩時間はこれからだ。細々とした仕事はあるが、それらは一時間ほどの自由時間が済んでからとなっている。とはいえ気心の知れた仲、そのあたりは呼ばれたらすぐサポートに入れるように、外に出たりはしない。


「保健室? 誰か怪我人が?」


 俺とゲンジさんがいない間に何かあったのか?


「いいえ、誰も怪我していませんよ? ちょっとこれをお借りしていたんです」


 千佳は備え付けの冷蔵庫をパカッと開き、なかから四角い箱を取り出した。


「じゃじゃーん、今日のお弁当です!」


「は?」


「ふふ、驚かれました? ささ、座ってください、お手拭きはこちらです」


 千佳はニコニコと笑いながら、備えつけのテーブルに手際良く弁当箱をひろげていく。


「いつの間に、ってかそんなの持ってきてなかっただろ」


「朝のうちに持ってきました」


「え、俺らと合流する前に?」


「太鼓の練習自体は十時からでしたので、その時に挨拶を兼ねてこちらに」


「なんでそんな……ってかゲンジさん、俺たちの分の弁当も注文してくれてるんじゃないのか?」


 例年通りであれば、俺達の分の仕出し弁当も注文してくれているはずだ。


「そう、そこなのです」


「そこ?」


「私たちはお昼からなので、そのタイミングでゲンジさんにお話ししたのでは間に合いません。なので、朝のうちに行って注文をお断りしておきました」


 まじかよ。


「何のために……」


 わざわざそんなことしなくても、千佳もゲンジさんの番号を知っている。わざわざ二度手間になるようなことをしなくても大丈夫なはずだ。


「そんなに大した理由じゃないんです。なんというか、お弁当をつくろうと思ったのはつい昨日の夜のことでして」


 照れくさそうに頬を掻きながら千佳は話し出した。

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