23.かなとなお 二

 須藤もその可能性に辿り着いたらしい。須藤へ頷き返し千佳を見れば、千佳もコクリと頷いた。


「それじゃ、トランポリンから登っていけばいいって感じ?」


「いや、それだともしなお君が他のコースから降りてきてたらまた入れ違いになるし、ここは三手に分かれて上に向かおう」


 さいわい、僕たちは四人組の班だ。それぞれのコースに一人ずつでもすべてのコースに分かれることができる。確実性が高まるのならその方がいい。


「どう分かれますか?」


「千佳と小湊さんはかなちゃんと一緒に、僕と須藤はそれぞれのコースで上を目指そう」


 誰がどのコースを進んでもいいけれど、この分かれ方以外はない。


「見つけたらどうすればいい?」


「そのまま上で合流で……」


 言いかけてふと頭にぎるものがあった。


「見つけ次第、LIMEライムで連絡で」


「おう、分かった」


「小湊さんもそれでいい?」


「いいけど、私は相楽さんのしか知らないわよ?」


 そう、現状ではそれぞれがそれぞれでID交換をしている形になっていた。


「ぁ、お、俺も篠森のしか知らねぇわ」


 当然、須藤も僕のIDしか知らない筈で、小湊さんのIDなんか持っているわけがない。


「ではグループを作りましょう。見つけたり、なお君らしい子をみつけたらそこで連絡ということで」


 言うが早いかスマホを手にした千佳から、僕の下へグループの招待が送られてきた。小湊さんのもとへも送られているし、これをさらに僕から須藤へ橋渡しすればグループ誕生だ。

 最後に須藤が加わり、全員が参加したことを確認する。


「ぉ、おぉ……」


 須藤がくぐもった声をあげ、スマホを両手で握りしめる。グループの中に小湊さんのアイコンを確認したからだろう。絶妙に気持ち悪い。


「と、それじゃ僕はこっち行くから、須藤はそっち行ってくれ」


「ぉ、おう!」


 僕がウッドデッキのコースを、須藤がハンモックコースの担当だ。アトラクションは全部スキップで、その横道を歩きながら探す形だ。


「それでは、私たちはこちらから。出口で合流しましょう」


 千佳と小湊さんにかなちゃんの三人組がトランポリンのコースへ進む。それぞれのコースへ別れ、なお君を探して歩く。

 人混みらしい人混みもなく、スタスタと登っていく。まばらにいる子どもたちも、みな楽しそうに遊んでいる。どうやらなお君らしい男の子はいないみたいだ。


「よ、そっちはどうだった?」


 十分も歩けば頂上に着いた。須藤の方が先に着いていたようで、軽い出迎えを受ける。


「それらしい子はいなかったかな。そっちも?」


「あぁ、てか俺の方は誰もいなかったわ。ハンモック人気ねぇんだな」


「偶然でしょ」


 それくらいよくあることだ。


「そうか? ま、そんなわけで俺の方はぱぱっとに着いちまったもんで、先にこの頂上の方を探してようかとも思ったんだ。ただ、俺がこの場を離れるとそれはそれでなお君と入れ違いになるかも知れないだろ? だからおとなしく待ってたんだ」


「僕の方にもいなかったから、あとは千佳達のところかこの頂上ってことになるけど……」


 スマホを確認しても、LIMEにメッセージは来ていない。


「千佳達が来るまで待とう」


「おう」


 かなちゃんの足の早さに合わせているのだろう。もうしばらくかかると見て、あらためてパンフレットを確認する。


「この先、あの道を登ったら茶店があって、さらに先に見晴らしの丘展望台だってさ」


 合流地点は階段の踊り場のようになっており、さらに坂を登った先にあるらしい。


「それじゃ、あの木の間にちょこっと見えてる屋根が茶店だろうな。……ちなみにチェックポイントはどこになってる?」


「茶店らしいね」


 細かいが、赤丸でマークされている場所は展望台側ではなく茶店の横についている。


「なにがあるかなー、ソフトクリーム食いてぇなぁ?」


「あるといいね」


「そのパンフレットには載ってないのか?」


「載ってない」


 茶店について記載されている箇所には、営業時間と定員数くらいしか載せられていない。

 このパンフレット自体が全体マップを兼ねたそれなので、もしかすると茶店は茶店でお品書きみたいなチラシがあるのかもしれない。

 そうこうして須藤と立ち話を続けていると、かなちゃんを先頭に千佳達が上ってきた。

 そこになお君の姿は見られない。向こうも、こちらに気づいて手を振るが、なお君の姿がないことになんとも言えない表情を浮かべた。

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