21.校外学習 五

「それじゃ、戻ってくるのを待とうか」


 話はまとまった。あとは千佳の方がどこまで進んでいるのかだけど、ちょうど先生にハンコをもらったところのようだ。列から外れ、戻ってくる千佳と目が合い手を振って応える。

 戻ってきた千佳に頂上のことを説明すると、二つ返事ですんなりと次の目的地が決まった。四人揃ってメガジップラインの人混みから外れていく。

 パンフレット通りにしばらく上り坂を進んでいくと、頂上へのコース入口に辿り着いた。そこには僕達の班と同じように考えたのだろう、いくつかの班が先にコースに分かれて進んでいくのが見えた。


「へぇ、なんか思ってたのよりすげぇな」


 スタート地点となる分岐に係員はおらず、代わりに大きな立て看板が設置されていた。コースそれぞれについてのことが詳しく描かれており、それぞれのコースもここから見比べることが出来た。


「どのコースで行く?」


 めつすがめつコースを見やる須藤の横で、看板にあるマップに目を向ける。


「いま須藤が見ているコースは、波のようにうねっているウッドデッキのコースらしいね。その隣は足場がロープで編まれたハンモックコースで、さらに隣が分厚ぶあつい白布が張られたトランポリンコース」


 それぞれに特徴があり、もちろんその先にもそれぞれの特徴に合わせた遊具が設置されている。

 そこまで難しいものではないみたいだが、これらのコースに共通して求められているのはバランス感覚だろうか。


「どれでもいいぜ! でもまぁ、この年齢としで滑り台とかちょっと恥ずかしいけどな」


 須藤ならどのコースを選んでも頂上までたどり着けるだろうが、できれば滑り台は避けたいというところだろうか。


「そう? 私はいいと思うけどな」


「っえ」


 小湊さんからの思わぬ声に、須藤は目を見開いて驚いていた。その顔には意外の二文字がありありと浮かんでいる。


「ほら、こんなことでもないと滑り台なんてやれないし」


 小湊さんは須藤と違い恥ずかしさなどないようだ。むしろウズウズしているみたいに見える。

 まぁ、どのコースにもその真横に土道があり、アトラクションを通らなくても登れると言えば登れるのだけど。

 コースに目を向けていた小湊さんが僕達の視線に気づき、妙ないたたまれなさを覚えたのだろう、


「っなによ、いいじゃない滑り台くらい」


 小湊さんはツンと唇を尖らせそっぽを向いた。それに誰よりも早く反応したのは須藤だった。


「いやいやいやいや! なにもなんて言ってないって!」


「私、『悪い』とは一言も言ってないんだけど?」


「あ、いや、その」


「へぇ~。須藤君は、この年になって滑り台に乗りたいって思うのは『悪い』ことって考えなんだ、へぇ~?」


「いやいやいやいや」


 ぶんぶんと両手を振って否定するが、二の句が継げられず、向けられるジト目に後ずさりしている。

 これはいささかが悪いだろうか? 須藤に助け舟を出して、小湊さんをなだめて早く次の話題に――。


「ハハハハハ」


「笑って誤魔化そうとしない!」


「ごめん、ごめんって」


「本当にそう思ってる?」


 どんどん話が進んでいく。


「思ってる思ってる」


「繰り返さないっ」


「はいごめんなさい!」


「その謝り方もなんかイヤ!」


「なんで?!」


「だって、軽くない?」


「か、軽い?」


「誠意が足りてないっ」


 いかんせん、まだ小湊さんの怒りは静まっていないらしい。けれど、なんというかこう……はたから見ると二人とも、自然に会話できていることに安堵しているように思える。

 二人のじゃれ合うようなやりとりに、ギクシャクしていた妙な緊張感は感じられない。互いに打ち解け合っている気はするし、一歩前進したのは間違いない。

 二人の様子を見ていると、ふいに袖をひかれて振り向いた。


「祐司さん、あちらを」


 そこには一点に目を向けたままの千佳がいた。視線の先を辿れば小学校低学年だろうか、肩袖に大きな星のバッジをつけた女の子がいた。しきりに辺りを見回して、何かを探しているような素振りを見せている。

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