7.他人(ヒト)の告白 三

「……」


 ……は? 俺が、小湊さんと?


「なんとか言ってよ」


 上目遣いのツンととがらせられた唇に目が引き寄せられる。瑞々みずみずしい果実のようなつやにゴクリと唾を飲み込んだ。


「ちょ、っと待て」


 駄目だ、状況に思考が追いついてない。小湊さんのささいな仕草にも目が奪われて、早鐘はやがねを打つ鼓動に息が上がる。


「……なによ」


 小湊律。小柄なショートボブの女の子。男子生徒にもフランクに接し、イベントごとでは持ち前のリーダーシップでクラスを引っ張る先導者だ。よく千佳と一緒にいるが、俺とは千佳がいないところで話すことなどたまにしかなかった。

 なのに。


「ジロジロ見んなこんにゃろー」


「悪い……」


 メンチを切られてしまった。腕を組んだ小湊さんは、指先でトントンと拍子をとっている。


「でもなんで俺なんだ?」


 純粋に疑問だった。嫌われることをした覚えはないけれど、その逆もしかりだった。


「ふん、そりゃ須藤とペアだし千佳とも近いからなにかとね」


 気にしてなかったけどいつのまにか、ってか。


「それで返事は? もちろんハイよね」


 こういう力強さが小湊さんの魅力で、さばさばしたところもとても好ましいと思う。須藤もきっと、小湊さんのそういうところに惹かれたんだろう。

 そしてここまできたら小湊さんが須藤をフッた理由は明白だった。


「……俺も小湊さんのこと好きだよ。でもごめん、彼氏彼女にはなれない」


 小湊さんには別に好きな人がいた。だから須藤を受けいれることが出来なかった。ただ、それが俺だったということはとても意外で驚いたけど、他に好きな人がいるからという理由は至極真っ当な答えだった。


「あ?」


 小湊さんの片眉がピクリと反応した。……怒鳴られるかもしれない。女の子から告白させといて、その気持ちにすら全く気付いていなかった上に断ったのだから。

 泣かれるかもしれないし、もしかしたら殴られる可能性だってある。けれど。


「小湊さんの気持ちは嬉しかったよ。だけど、そういう関係にはなれない」


 言葉を濁すことも失礼だ。


「……」


「……」


 小湊さんに恥をかかせてしまった。

 どんなそしりを受けようとビンタされようと、こちらは甘んじて受けいれるしかない。


「いや私、告ってませんけど?」


「え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る